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気持ちの強さ
知らなかったのだ。
結婚の挨拶をしに行く所にまさか、柊がずっと『好きな人がいるんです。きっとずっと、好きな相手が』と言い続けた人がいるなんて。
柊の気持ちが手に入らない、それでも結婚をして、共に生活をするうちに柊の気持ちを掴んでいければいいと思っていた。
けれどここに来て、それが到底無理な考えであることを悟った。
柊の好きな相手が弟という事実に驚いた、だがそれも最初だけだった。
彼らはきっと、生まれた時から一緒にいて、愛を育んできた。
そんな何年も募る想いに自分が入っていく余地などない、だというのに兄弟という壁に阻まれて、好きではない相手と柊は結婚をしようとしている。
「柊さんはオレとキス、出来るんですか?」
「……何、を……」
「分かってるんですか? この結婚が後継ぎを作りたいがためのものだという事、貴方の血が、欲しいがためだという事」
「そんな事、分かってます」
「分かってません! 貴方はオレできっと勃たない! 本当に好きな相手がいるのに、勃つわけがない!」
叫んでそれから、楽は家の中に入っていった。
柊は好きな人から離れる事を選んだ。
その好きな人と柊が、ずっと会わなければ良いと思っていた。
でも、会ってしまった。
そりゃ二人は兄弟なのだ、いつかは会う時が来ていただろう。
けれど実際に二人の様子を見て、悠衣と会って。
この二人は、結ばれるべきだと思った。
自分の感情を抜きにして、そう思ってしまった。
そんなの悠衣の想いに負けたも同然だ。
自分の感情なんてちっぽけで、比べるまでもなく軽いもの。
好きな気持ちは確かにある、だが悠衣ほどではない。
だというのに強情を張っている柊に腹が立ち、楽はそのまま家の玄関に向かい、急いで靴を履いて出て行った。
「楽!」
呼びかける声も玄関でだけ。
それ以上付いては来ないだろう柊を放って、楽は飛び出した。
行き先は決まっている。
悠衣の通っている大学。
家では柊がいる、だから話せないことを話しに行こう。
今、楽らが抱えている問題について。
そう思い、楽は携帯で場所を確認しながら出来るだけ急いで大学へ向かった。
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