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邪魔な自分
本格的に夏も近づき、蝉の声も目立ってきた今日この頃。
強くなってきた日差しの下に行った柊を、楽はじっと見つめていた。
彼が外に行った、つまりは自分に聞かれたくない内容を話している。
分かっているけれど携帯を手にしたまま固まった気がする彼を見て、耐え切れず楽は声を掛けた。
「柊……さん」
外に出て、恐る恐る話しかける。
するとハッとしたように振り返り楽を見た柊は、自身の感情を誤魔化すように微笑みを浮かべた。
「すみません、楽。話の途中で抜けたりして。それで、どうしたのですか? そんな、思いつめたような顔をして」
「今の電話……悠衣さん、ですか?」
「違います」
「じゃあ、悠衣さんに関連する人だ」
「どうしてそう思うのです?」
「貴方にそんな表情をさせるのは、悠衣さん以外いないから」
楽がそう言うと、柊の笑顔が少し崩れた。
それを見て、楽はもっと畳みかける。
「柊さんは……悠衣さんの事が、好きなんですよね」
「好きではありません、悠衣は弟ですよ?」
「誤魔化すのが案外下手なんですね、柊さんは」
好きではない、そう言って笑う彼の表情がいつもより冷たく、表情を悟らせないために線が引かれているのを見て、楽は苦笑気味にそう言った。
すると驚いたように目を瞠った柊は、クスリと本当の笑みを見せる。
「僕は、そんなに悠衣を欲しているように見えますか?」
「はい。悠衣さんの前ではそんな事無いんですけど、見てない所では視線に熱が籠ってますよ」
「そう……なんですか? 気を付けなければなりませんね」
小難しく顎に手を当てて考え始めた柊を見て、楽はそっと瞳を伏せた。
柊に好きな人がいる事は知っていた。
自分がした告白など、とっくの昔に振られている。
それでもしつこく付きまとい、柊をこんな、面倒ごとに巻き込んでしまった。
愛し合う二人を、引き裂いてしまった。
悠衣が度々、こちらを見て、それから柊の事を見つめている事など知っていた。
好きな人は自然と目で追うし、目に入る。
同じ人を好きになった者同士、視線の先は同じ事も多かった。
恋人ごっこをしている楽らの事を見て、悲しそうに瞳を伏せて。
話しかけたいだろうに自分が邪魔になっていて、伸ばした手も、駆ける言葉も、滑り落ちる。
「明日は、父が帰ってくる日です。心構えは出来ていますか?」
「柊さんは……これで、良かったんですか?」
「何がです?」
「オレと結婚なんてして、本当に良いんですか?」
「貴方を好きになる事は無い、それでも良いと言ったのは貴方自身ではないですか」
「でも……っ」
言いかけた言葉を、楽は飲み込んだ。
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