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答えを

「遠い場所で交通事故に遭った息子を引き取りもしなかったというのに……今更、柊は欲しいと? それは、アルファだからか?」 「そう、です。父は、会社を大きくすることしか考えていないから」  申し訳なさそうに楽が視線を逸らしながらぼそぼそと言う。  だがそれは、決して楽のせいではない。  なので「ああいや、別に君が悪いわけじゃないから。顔を上げて」と父は怒っていないというように笑顔を作った。  それに安心した楽は、ほっとコクリと頷く。 「じゃあ、柊、お前は……悠衣と結ばれるために、実川家に入ると?」 「はい。結婚ではなく、養子として入りたいと思っています」  妙に清々しい表情で柊が言い切った。  それは、柊が考えて最善だと思った道だった。  悠衣との間に阻む壁は、『兄弟』という事、ならその壁を取り壊せばいい。  そして実川家が欲しがっているのは柊自体、結婚はせずとも養子となればそれは叶う、そしてこれは家での場所がないと泣いていた楽を救うことにも繋がる。 「あとは悠衣次第です。悠衣が決めたことに、僕も従いましょう。……ここに来てずっと酷い態度を取っていたので、もうダメかもしれませんが」 「そうだな。俺たちもお前たちがちゃんと話し合って決めたことなら口出しはしない。きちんと、悠衣と話してきなさい」 「はい」  親が子供を叱る図式のようだが、子供がもう良い年なのはいかがなものか。  そんな事を考えながらも、そっと側にいる楽を柊は再び伺った。  これは楽にも話していなかったことだ。  いきなり『やっぱり結婚はしないかもしれない』などと言われ、どう思っているだろうか。  俯く顔の下にある感情が計り知れなくて、柊は不安げに瞳を揺らした。 「ふっ」  だが、楽の口から漏れた声に、柊は目を瞬かせた。 「……よかったぁ。結婚、しなくて良さそうで」 「……いや、だったのですか?」 「あ、いいえ! 嫌じゃなくてむしろ嬉しかったんですけど、悠衣さんを見てたら、オレなんかがってどうしても思ってしまっていたので……柊さんは、悠衣さんと結ばれるべきだと思っていたんです」  満面の笑顔でそう言われ、柊もほっと胸を撫でおろした。  どうやら、結婚の話を破棄することを咎める気は無さそうだ。  そんな楽に感謝を込め、「ありがとうございます」と実際に口にする。 「あ、そうだ。これ」 「これ、は……?」 「悠衣さんの友達から預かっていたんです。悠衣さんを取り戻す気があるのなら、ここに来いと。地図も……あった、これ」  いつの間にか悠衣の友達と面識を持っていた事には驚いたが、それを受け取り、柊は立ち上がった。 「まだ……間に合うでしょうか」 「大丈夫です! だって二人は、『運命』なんですから」  友達、というのは、あの電話を掛けてきた男に違いない。  確か名前は、名倉緋佐と言ったか。  悠衣の事を恋愛的な意味で好きだと豪語していた男、そしてその男と一緒にいるという悠衣。  愛想を尽かされていてもおかしくない、だって自分は、それほどの事をした。  悠衣の覚悟を確かめるがために、楽をも利用して。 「では……行ってきます」  それでも未来の道を決めるために、柊は歩き出す。 『兄弟』か、『恋人』か。  残された道は二つのみ。  決めるのは、悠衣。  その答えを聞くために、柊は玄関へと向かった。

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