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嫉妬

「ここ……ですね」  地図を頼りに歩いた先にあったのは、一般的な一軒家だった。  白を基調に水色を敷かれている様は見ていて心を落ち着かせ、そのまま柊は玄関のインターンフォンを押す。 『はい』 「悠衣……ですか? 話をしたいのですが、出てきていただけませんか?」 『……ちょっと待って』  柊が訪ねてきた事に一瞬動揺の色を見せたがそれも一瞬で、すぐに悠衣は背後にいるらしき名倉緋佐に向かい何やら確かめ、やがて再びインターフォンに声を通した。 『今行くね』  離れていたのは、たったの一日。  五年の月日に比べたらちっぽけなもの、だというのに悠衣に会えると思うだけで心躍るのはどうしてなのだろう。  そんな妙にドキドキと忙しなく動く心臓を抑え込みながら、柊は悠衣がドアを開けるのを待った。  そしてドタドタと走ってくる音と共に、その扉は開かれる。 「柊兄……入って」 「え……良いのですか?」 「うん。緋佐が、柊兄と話したいんだって」  いつもと変わらぬ様子の悠衣が、柊の腕を掴もうとし、けれどもそれを止めて手で促す。  最近悪かった顔色は柊と離れたことでぐっすり眠れたのか、元に戻っていて。  嬉しいはずなのに、寂しいような、抱く資格などないけれど嫉妬心のような。  複雑な感情を胸に抱きながら、靴を脱ぎ「失礼します」と柊はその家に入っていった。  そこで感じるこの家を充満するものに、柊は足を止めた。  その正体を確かめるべく、悠衣を引き止める。 「これ、は……」 「今、発情期なんだ、緋佐。だから僕は、反対したんだけど……緋佐が、良いからって。……でもやっぱり、柊兄には辛いよね。外、出よっか?」 「いいえ、良いです。名倉くんの部屋はどこですか?」 「……付いてきて」  柊の様子を頭のてっぺんからつま先までを行ったり来たりさせ探った悠衣は、本当に大丈夫そうだと判断したらしい。  そのまま背中を向け、階段を上った。 「緋佐、入るよ」 「ああ」  発情期の割には明るい声で返事をした緋佐の声を聞き、悠衣はその部屋に押し入ろうとする。  けれども少し足を進めた所で、腕をぐいと引っ張られ、体勢を崩した。 「悠衣!」  腕を引っ張られた悠衣は、緋佐に腰を抱かれそのまま流れるようにキスされそうになる。  咄嗟に柊は悠衣の反対の腕を掴んで、後ろから羽交い絞めにして取り戻すことに成功した。 「それが、あんたの本性?」  嫉妬を剥き出しにした柊に、ふっと笑って緋佐はベッドに雪崩れ込む。 「緋佐! ダメだよ、まだ寝てなくちゃ」 「悠衣の為にやったんだよ、感謝しろ」 「僕の為って、どういう……柊兄?」  荒い息をしている緋佐を心配そうにのぞき込んだ悠衣が、柊を振り返る。  その目に映ったのは、赤い顔を掌で隠している、滅多に見ない柊の姿だった。

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