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覚悟を

「悠衣。もし、ですが……僕との関係を『兄弟』か『恋人』で選ばなければならないといったら、どうしますか?」  もし、という仮定の言葉で誤魔化した。  それは柊の、弱さから出た言葉か。 『兄弟』を選んで欲しいというのは理性で、本心では『恋人』を選んで欲しい。  そんな揺れる心などお構いなしに、悠衣は即答して見せた。 「恋人」  と。 「だって、僕らが普通の兄弟だった事ってなかったでしょ? 最近のが普通だというのなら、僕は『兄弟』なんていらない。出来るのなら、柊兄と『恋人』になりたい」  もう無理だってのは、分かってるけど。  柊には将来を誓った相手がいる、そう思っている悠衣は、しぼむ声でそう零した。  その答えを聞いて、柊は「分かりました」と悠衣に近寄る。 「ではこれは、恋人としてのキスです」 「え……」  戸惑う悠衣の唇を、瞬時に柊は奪った。  頬を引きつらせながら「見せつけてくれますね」という言葉に、「貴方にも、手は出させないためです」と返し、二人に背を向ける。 「今日はそれを聞きたかっただけなので。僕はそろそろお暇させていただきます。悠衣……次会った時、僕は貴方の兄ではありません。なので、『柊』と呼び捨てでも構いませんので。それでは」  背中を向けていても唖然としている悠衣の表情が目に浮かぶようで、意地の悪い笑みを見られていないことを良い事に柊は浮かべた。 『恋人』を選んでくれたことが、単純に嬉しかった。  それはキスしたい衝動を、抑えきれないくらいに。 「これから……忙しくなりそうですね」  突き放しても、悠衣は『恋人』としての道を選んでくれた。  それは覚悟がもう決まったという事。  元々は兄弟なのだ、実川家に入ったとしても何か言われることは否めない。  けれどもそれを気にせず、二人の世界を作っていこうと柊も覚悟を固める。  その時ふと、柊の脳裏にある記憶が蘇った。  それは悠衣が生まれて、間もなかった頃。  ベビーベッドに寝かされた悠衣に恐る恐るといった感じで伸ばした指を、悠衣が掴んで、キャッキャッと笑って。  たまらず愛おしいという想いに満たされた。  それは時を得るうちに変質を遂げ、『愛』にまで育って。 「もう離しませんし、離れません」  兄弟ではなく、恋人として。  生涯を捧げると誓おう。  そう思いながら柊は、緋佐の家を出て行った。  

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