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84.
大晦日。
年末特番が流れ、もう今年も終わりかあと深く息を吐く。今年に残された用事は年越しそばを食べることくらい。
今年は俺にとって変化の1年だった。楽しかった大学を卒業して、意気揚々と新社会人として会社に入り、忙しさに殺された。そして、おにーさんに出会って飼われた。あの頃は忙しすぎてってそれは今も変わらないけど、とにかく色々なものに飢えてた。人との会話はもちろん、手料理やあったかい人肌。人は飢えるとなんだってするんだと実感した1年でもあった。
ちょっと知らない扉を開きすぎた。まさか男の人とエッチして男の人にドキドキムラムラする自分がいるなんて知らなかった。そんな相手は目を開ければすぐ真上にいる。
「おにーさあん」
「まなんだ?」
「もうすぐ今年が終わっちゃうね」
「そうだな」
「来年の大晦日もこうしててね」
「はいはい」
おにーさんの膝枕でゴロゴロする俺と、そんな俺を気にすることなく寛ぐおにーさん。今年も今日でお納めで、明日はおにーさんのお誕生日で新年。ただでさえおめでたい日なのに今年はいつもの倍はおめでたい。
「ほんとに誕生日何もいらない?なんかして欲しいことない?」
「ない」
「だよねえ。おにーさん、人に買わせるタイプじゃ無いし、して欲しいことをねだるんじゃなくてねだらせるように持ってくもんね」
「よく分かってんな。なら続きも分かってんじゃねえの?」
「…………やだ」
「ははっ、良いよ。俺待つのは得意なんだよ」
…………本当に性格が悪い。
思い出させるようなことはしてくるくせに、おにーさんからそれをすることは絶対にない。俺がねだって、堕ちるのを待っている。本当に本当に、本っ当に性格が悪い。
むっと睨むと、思ってることあるなら言えば?なんて言ってくる。そういうところも性格が悪い。俺がなんて思ってるかなんて絶対に分かってる。
それでもおにーさんのことを大好きだなんて思うんだから俺は相当おかしくなったと思う。
ゴロゴロしているうちにうとうとして年を越す前に寝ていたらしく、物音といい匂いに釣られて起きる。体を起こすとブランケットが乗っていて、乗せてくれたであろうおにーさんを探すとキッチンに立っていた。
「お蕎麦?」
「そう。起こすか悩んでた」
「今何時?」
「あと数分で年変わるぞ」
「そっかあ」
「蕎麦食べれるか?」
「うん」
お蕎麦を用意してくれてたからおつゆのいい匂いがしたのか。今日の朝、きちんとエビを買って昼の間に揚げてくれていたもの知ってる。おにーさんはかき揚げが好きだから、小エビの乗ったかき揚げと俺の好きなエビ天の両方を作ってくれた。お蕎麦もこだわりがあるようで、きちんとしたうどん・そば屋さんにに行ってお蕎麦を買っていた。
テレビから聞こえる除夜の鐘の音を聞きながら、お蕎麦をすすっているとカウントダウンか聞こえてきた。
「おにーさん、お誕生日おめでとう」
「そっちかよ。ありがと。新年おめでとう」
「明けましておめでとうございます。今年もお世話になります」
「ははっ、そうだな。今年もちゃんと面倒見てやるよ」
うん、いっぱい面倒見てね。
俺、おにーさんに出会う前もなかなかなダメ人間だったけど今じゃ完全にプライベートをおにーさんに依存したダメダメ人間だから。
お蕎麦を食べ終わり、もう少し新年特番を見るか悩んだけど寝るおにーさんについて行く。
「お前寝れんの?」
「おにーさんがぎゅうってしてくれたら寝れるよ」
「いつから寝かし付けまで必要になったんだよ」
「いーじゃん」
「ったく」
ベッドに寝転がるおにーさんの隣に潜り込んでぎゅうっと抱きつく。おにーさんは背中をとんとんしてくれて、なんだかんだ寝かし付けまでしてくれる。
おやすみのちゅーをしてもらって、そう苦労することなく夢の世界に旅立った。
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