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85.
…………ン
………ポーン
……ピンポーン
遠くから音が聞こえて、薄っすら意識が浮上する。
よく聞けばインターホンの音。
今日は元旦で、おにーさんも8時頃まで寝るなんて言ってた。俺、寝過ごしたかなあ………。ん?でもおにーさんまだ隣にいるよね?
「………?」
「ほっとけ」
「え?」
「どうせ穂積と穂波だろ」
「おにーさんのお誕生日祝いに来たんじゃないの?」
「んな早朝から来るバカに祝われたくねえよ」
どうやらこの音に起こされたのはおにーさんも同じらしく、犯人に目星をつけてるおにーさんはイラッとしてるのを隠さない。
そのまま寝ることは諦めて起き上がるけど、おにーさんは玄関ではなくリビングに向かった。俺も続いてリビングに行き、モニターを見るとミホちゃんともう1人女の子。この子がきっと妹の穂波ちゃん。半年前に俺がメッセージだけやり取りして、会話できる幸せを教えてくれた女の子。
「おにーさん」
「なんだ」
うわぁ、機嫌悪っ!
「俺、カホ…穂波ちゃんにお礼言いたい」
「はあ?」
「あの時、穂波ちゃんがメッセージやり取りしてくれてたの。俺嬉しかったもん」
ずっとシリしか話し相手がいなかったのに、どれだけ連絡出来なくても穂波ちゃんは返事をくれた。終わり方がどうであったとしても、あの時はすごく嬉しかったのだ。
そして、俺が細すぎて嫌って帰っちゃったけどおにーさんって飼い主を俺にくれた。
ため息を吐いたおにーさんは仕方ねえなと未だインターホンが鳴り続ける玄関に向かった。
「お前らうるせえよ」
「バレバレの居留守使ってる兄貴が悪いって」
「そうだよー!あたし達毎年お祝いに来てるでしょ」
「その手に持ってるものなんだよ」
「「ポチ袋!」」
廊下から聞こえるおにーさんの苛立った声とミホちゃんの声と知らない声。ミホちゃんと穂波ちゃんはおにーさんにお年玉をねだるらしい。
一応おにーさんの誕生日を祝いに来てるという体だけど、この感じじゃ毎年お年玉を貰いに来てるって感じなのかもしれない。
「ったく。お前ら俺をなんだと思ってんだよ。穂積はもう働いてるし穂波も20だろ」
「いいじゃん、高兄稼いでるもん。ほづ兄には言わないし」
「兄貴なんだかんだ未だにくれるし、穂波がねだりに行くまで俺も乗ろうかなって」
「誠ですらんなこと言わねえよ」
うん、言わない。俺、ほんと貯金に困ってないし。
光熱費負担なし、家賃負担なし、食費負担なし。
自分で払ってるものってスマホ代とゲームソフト代。あとたまに買ったりする飲み物とかくらいでお給料のほとんどが貯金になってる。これ以上ねだるなんて俺はしない。
「誠くんあけおめ」
「ミホちゃんあけおめ。今年もよろしくね」
「はいはい。あれ、服着てんの?」
「うん、寒くなってからおにーさんが買ってくれた」
「そっか」
ミホちゃんと話しこもうとしたところで、おにーさんがミホちゃんと穂波ちゃんに雑煮がいるかと聞いていて2人ともいると即答していた。
おにーさん以外がリビングに残されて、俺はちらっと穂波ちゃんを見る。おにーさんとミホちゃんは口癖や表情がよく似てるけど、顔立ちはおにーさんと穂波ちゃんの方がよく似てる。
「高兄の好みって分かんないなあ」
「俺も。もっと強そうな奴の方が楽しい」
「それ分かる」
「………どうこういうつもりはないけど、体だけとかダメだよ。特に穂波ちゃんは傷付くのは絶対に穂波ちゃんなんだから大事にしないとダメだよ」
「………なんか、思ったよりまともな子飼ってる?」
「ちょっと!」
「そうだ、穂波」
「なにー?」
「大学の勉強、分かんねえことあればそいつに聞けば解決するぞ」
「「「え?」」」
キッチンから少し話に入ったおにーさんに俺たち3人はぽかんと顔を見合わせる。なんのこと???
「誠くん、化学得意なの?」
「うん。化学と物理は好きだよ」
「ちょっと待って!一個分かんないところ年末に出てた!」
穂波ちゃんも化学の勉強してるの?
この3人、似てるのに将来の仕事違いすぎでしょ。スーツ着るおにーさんにおしゃれな美容師ミホちゃん、きっと白衣か作業着にまみれるであろう穂波ちゃん。
入ってすぐの入り口に置いていたカバンを漁る穂波ちゃんを見ながら、お雑煮のいい匂いにお腹を鳴らした。
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