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穂波ちゃんが何かを持ってくるより早く、おにーさんがお雑煮を持ってきてくれた。湯気立つお雑煮、お澄ましのいい匂い、そしてとろとろのお餅。
「いただき「これ!この再現実験がうまくいかないし、なんでこの薬品入れるのかも分かんないし、調べたいのにパソコン壊れて今日ネカフェに行こうと思って。持っててよかった!」
「うぅ、待って、穂波ちゃん。お願い、先に食べさせて。お願い、お願いだから食べさせて」
「ははっ、穂波も先に食っとけ。食べ終わってからやればいいだろ」
「はーい」
早口言葉でまくし立てる穂波ちゃんの持つものも見たいけど、目の前の美味しい誘惑に勝てない。おにーさんも穂波ちゃんを止めてくれて、改めていただきますと言って食べ始める。
料理上手なおにーさんはやっぱりお雑煮も美味しい。お節も買ってくれたから、一緒に摘みながらパクパクと朝ごはんを食べる。いつも2人のテーブルに4人も座っていて、正月早々賑やかな朝になった。
「ふぅー、ご馳走様でした!おにーさん、お雑煮明日も作る?」
「食いたいなら作るけど」
「食べたい!すっごい美味しかった!もう母さんのお雑煮に戻れない」
おにーさんは苦笑いをして、お澄ましでいいのか?と聞いてくれる。白味噌バージョンも興味があったから明日は白味噌でお願いしますとリクエストしておいた。
明日の朝が楽しみだなあとお雑煮に想いを馳せる俺を現実に引き戻したのは穂波ちゃんだった。
「誠くん、この実験なんだけど」
渡されたのは実験ノート。懐かしいなあ。
今も当然持ってるけど、そういうことじゃなくてこの内容が。俺も昔やったなあと思い出す。でもそう再現が難しいような実験でもなかったはずなんだけどな。
「穂波ちゃん、ここ触媒入れた?」
「え?」
「あと、攪拌時間がこれじゃちょっと短いからもう少し長くして」
「え?え?」
「?この式のままやったなら触媒入ってないと思うよ。あと、攪拌もスターラー使った?」
「…………触媒は覚えてないけど、スターラーは使ってない。あと何か気になる?」
「うーん、そうだなあ。暇だったでしょ」
「うん」
「だよねえ。教授が許可してくれたら50度くらいに加熱しながらやるといいよ。反応が進むから」
「そうなの?」
本当に懐かしい実験をしていて当時の自分を思い出す。この化学式のままじゃ本当に時間がかかって、熱化学で考えてみると加熱してやると早いんじゃ?と教授に相談したこともあったっけ。
教授はちゃんとその辺も知ってたから、安全な範囲で許可をくれた。穂波ちゃんの通うところがどうかは分からないけど。
「あ、ねえ。この薬品入れるのはなんで?」
「ああ、それは酸化還元の話だよ。その化学式の価数数えてみて」
「ええっと、」
「その薬品を入れると電位が上がって促してくれるし、マスキング効果で余計なものの検出を下げる。そんでもって無色のままでいてくれるから入れるの」
「…………やばい。1週間調べて分かんなかったことがわずか数十分で解決してる」
この実験、化学の実験なんだけど熱化学も酸化還元も同時に見た方が勉強になる。なぜか基礎化学でやらされる実験だけど、こんだけ他の知識を問うならもう少し先にさせた方がいいと俺的には思っていたりもする。
俺と穂波ちゃんが話していると、ミホちゃんとおにーさんは訳わかんねえって2人して同じことを言って同じように頭を掻いていた。やっぱりよく似てるなあと笑いが溢れた。
「意外。誠くんどう見てもバカっぽいのに難しいこと話してる」
「ミホちゃん、俺こう見えて将来有望って言わなかった!?」
「将来有望な奴は自分でそう言ったりしないし」
それもそうか。いや、でも俺生き残れたら将来有望だと思う。他の部署の先輩にもそう言われるし。
「俺、そんなにバカっぽい?」
ああだの、うんだの肯定する返事しか聞こえなかった。まさかのおにーさんまで肯定していて、むっとおにーさんに文句を言う俺と笑って見てるミホちゃんと穂波ちゃんに囲まれ、楽しく過ごした。
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