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穂波ちゃんの実験のまとめを見ながら、ミホちゃんに髪を切ってもらい、今は家電量販店におにーさんの運転で向かう。誕生日なのにちゃっかり穂波ちゃんの足にされていて、家に帰らなくても同じじゃねえかと文句を言いながらおにーさんは車を出していた。 「あたし機械関係弱いんだよね。ほづ兄も役に立たないし」 「俺はそっち系無理」 「俺も得意じゃねえよ」 「あたしよりできるじゃん」 きょうだいで得手不得手まで似てるらしい。全員が全員、パソコンの接続関係はやりたくないと押し付け合っていて笑いが溢れる。 俺の実家でも両親はてんでダメ、兄達は人並みには出来ていたけどやっぱり家庭を持って離れて暮らすと頼りづらいこともあって必然的に俺の仕事になっていたから家での接続くらいなら問題なくできる。 やってもいいけど、俺が家に入るのもなあと悩む。 「誠は?」 「ふえ?」 「接続とかできる?」 「うん。普通にネット繋いで設定くらいなら」 「頼んでいいか?」 「俺はいいけど」 家上がっていいの?と聞けば良い良いって3つの声が重なった。本当によく似てるなあ。この言い方、完全に同じだった。 車に揺られてショッピングモールに着き、元旦ならではの人の多さにうんざりする。先に家電量販店に向かうけど、ここは更なる激戦区。 そんなところに入っていく3人に続く。 パソコンコーナーの前で話し合う3人を置いて、俺は1人イヤホンやシェイバーコーナーを見る。こういう時に買い換えるのも悪くない。特にイヤホンはブルートゥース対応のものが欲しいなあと思っているから結構買う気。 「はあ?なんで俺が買うんだよ」 「お父さんに頼んだら穂高に買ってもらえって言われたから?」 「なんで俺なんだよ」 「親父ももうすぐ定年だし、兄貴の方が稼いでるしってことじゃね?」 「チッ」 あらあ。おにーさんはパソコンなんて高額なものをおねだりされているらしい。ミホちゃんは宥める言葉をかけながらもかなり高性能らしいドライヤーを買ってと持ってきていて、穂波ちゃんは私はこれーとヘアアイロンを持ってきていた。 「はあ、誠は?」 「え!?俺自分で買う!」 「誠くん、甘えとけよ」 「そうだよ、高兄稼いでるから大丈夫!」 「俺、おにーさんにこういうの買って欲しくて飼われてるんじゃないもん」 「「なんで飼われてるの?」」 「飢えてたから」 ミホちゃんと穂波ちゃんのポカンとした顔と、おにーさんの呆れた顔が俺に向く。たったそれだけで!?って言われたけど、たったそれだけで俺は死にそうだった。 「おにーさん、買ったげるの?」 「年に一度くらいはな」 「おにーさんのお誕生日なのにね。おにーさん、なんか欲しいものない?」 「単3の乾電池」 「そういえば寝室の壁掛け止まってたね」 俺はイヤホンと単3の乾電池も手に持ってお会計に並ぶ。おにーさんはパソコンの伝票にドライヤーにヘアアイロン。ざっくり20万は飛んでいきそうな買い物を押し付けられている。自分の誕生日に貰うんじゃなくて買わされるって、元旦生まれのおにーちゃんは損だなあと思った。 直ぐにお会計が終わった俺と、荷物のお渡しに時間がかかるおにーさん。俺はまた店内に戻り、ミホちゃん達と合流した。 「誠くん、お昼何がいい?」 「へ?」 「俺は焼肉がいいんだけど」 「あたしはしゃぶしゃぶ!」 「「どっち?」」 「…………焼肉」 「よっしゃ!」 「ええー」 もしかして、あんなに買わせたのに昼ご飯までねだる気じゃ……?と不安になる。もちろんその予感は的中していて、ミホちゃんは兄貴も行くからバイキングじゃないとこだなって言ってる。 「待って!2人ともおにーさんにねだりすぎ!」 「兄貴ってねだられるのに弱いだろ」 「それに高兄はほづ兄と違って稼いでるし」 「仕事的に仕方ないだろ。美容師で兄貴並みに稼ぐなんてどんだけだよ」 「稼ぎとかじゃなくて!2人とももう成人してるんでしょ?」 「大丈夫だって、兄貴は無理な時は無理って言うし」 何がどう大丈夫なのか分かんなけど、俺がこんなねだられまくる誕生日を迎えたら嫌だなあと思う。かと言って、おにーさんがこのメンバーで行って割り勘にするとも誰か(俺かミホちゃん)に出させるとも考えられない。おにーさんはため息をつきながらきっと連れて行ってくれてお金も払ってくれるだろうってことも予想できる。止めきれなかった俺がしょんぼりしていると、おにーさんがパソコンにドライヤー、ヘアアイロンを乗せたカートを押して来た。 「誠、いじめられた?」 「ううん。おにーさん、俺はおにーさんのお誕生日だって忘れてないからね」 「?ありがとう?」 「おにーさん、ぎゅってしていい?」 「外だからやめろ」 おにーさん、ごめんね。俺、ミホちゃんと穂波ちゃんを止めれなかった。心の中で謝る俺と、遠慮なくおにーさんに焼肉をねだるミホちゃんと、しゃぶしゃぶの方がいいよね?と詰め寄る穂波ちゃん。俺の予想通り、ため息をついて焼肉と答えて、ミホちゃんに店調べてんの?と聞いてすべで受け入れていた。

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