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大きなショッピングモールだから、ミホちゃんご希望の焼肉店も入っていた。バイキングではなく一皿いくらっていう食べるほどに値段が上がる焼肉店だ。 確かにこういうお店の方が美味しいけど、おにーさん自分の誕生日にどんだけ使われてるんだろ……。そりゃ実家にも帰らないだろうなあ。 「おにーさん、毎年こんな誕生日なの?」 「まあな。働いてからは毎年これだ」 「…………嫌にならない?」 「祝われてるというよりは集られてる気がするな」 うん、俺もそう思う。 「俺、焼肉代くらい出すよ?」 「お前が出すくらいなら穂積に出させる。あれでもお前より社会人長いし年も上だし。でも穂積に出させるくらいなら俺が出す」 「結局おにーさんが出すんじゃん」 「…………」 一緒に生活をしていて、おにーさんを浪費家だと思ったことはない。けど、今日のお金の使い方は浪費というか散財というか、おにーさんの身にならないものがほとんどだ。 俺たちが見つめあって揃ってため息を吐き出した頃、ミホちゃんが呼ばれたー!と俺たちを呼ぶ。おにーさんは気にせず腹一杯食えよと俺の頭を撫でてミホちゃんの方に歩いて行った。 普通のから上、特上までいろんなお肉がある。俺はそこまで繊細な舌をしてないから並のお肉でいいかなあ。肉の美味しいところも分かってないからいつも無難なカルビしか食べないし、みんなにお任せでいっかとメニューを見るのをやめた。 「食いたいのない?」 「ううん、なんも分かんないからお任せ。おにーさんが好きなのちょおだい」 「俺はハラミばっかだそ」 「俺はカルビ派」 「あたしタン」 そんな各々の好みの違いから、セットとそれぞれが好きなものを追加で頼んでくれた。ご飯も頼もうとした俺に、せっかく焼肉きたんだから肉だけ食えとご飯は注文させて貰えなかった。 初めて来たバイキングじゃないお店のお肉はすっごく美味しかった。分厚いしジューシーなのにパクパク進む。けど、、 「おにーさん、俺やっぱりご飯欲しい」 「焼肉に?」 「ん、ご飯」 せっかくご飯が進みそうないいお肉を食べてるのに肝心の白ご飯がないのは悲しくて追加でご飯を注文した。ミホちゃんと穂波ちゃんがついでにとお肉をさらに頼み、おにーさんは野菜も食えとサラダと焼き野菜を頼んでいた。 「おにーさん、焼肉って美味しいね」 「焼肉くらい来たことあるだろ?」 「バイキングしか行ったことないから、もっとお肉は硬くて薄いもんだと思ってた」 「………」 「兄貴、ちゃんと連れてってやれよ」 「そうそう、食育も大事だよ」 バイキングしか行ったことないってそんなに問題だった?俺、そんなに食にうるさくないから、あれはあれで満足だったんだけどなあ。 これも美味しいってミホちゃんも穂波ちゃんも俺に色々勧めてくれて、俺の取り皿にはどこの部位か分からないけどてんこ盛りにお肉が溜まっていて、どれもとても美味しかった。 「よく食べたぁ」 「誠くんよく食べるね」 「まだ入るよぉ。フードコートでアイス食べたい」 「あたしも食べよっかなあ」 「買ったげるよ」 「いいの?」 「俺に遠慮するなら誕生日のおにーさんに遠慮しなよ」 えへへと笑って誤魔化そうとする穂波ちゃん。 アイスくらいなら、というか焼肉も別に俺が出しても良かったんだけど肝心のおにーさんがそれをさせてくれない。 「誠くん、連絡先交換しない?」 「いいよぉ」 「課題わかんない時、聞いてもいい?」 「良いけど、俺返事できる時間遅いよ」 「それでも良いよ。もし誠くんでも分かんなかったら調べるし」 「やる実験教えてくれたら、やったことある実験ならレポートくらい送るよ」 「いいの?」 コクリと頷く。化学系の実験なら似たようなものが多いからきっと役に立つと思う。まあ、実験ノートのコピーもあるんだけどあれは悲惨。慌ただしい実験なんかだと読める字じゃない。書いた本人の俺でさえ判読不明な文字に悩まされたことだってあった。ポチポチと連絡先を交換していると、少し声の調子を落とした穂波ちゃんに謝られた。 「あの時はごめんね」 「へ?」 「あたし、背高いでしょ?ただでさえ背が高いのが嫌なのに、隣に立つ人がほっそい男の人って嫌で……」 「いいよ。俺自分でも自分の体見てキモいって思うもん」 まさか謝られるとは思わなかった。俺的には謝られるどころか感謝をしてると伝える。 そのおかげで俺はおにーさんに飼って貰えたんだから、穂波ちゃんが謝ることなんて何もない。 この細い体は未だにキモいと思うけど、おにーさんはこんな肋の浮いた体を好きだと言うし、可愛がってくれるから嫌いだとは思わない。 穂波ちゃんと少し話をしているとお会計が終わったおにーさんとお手洗いから戻ってきたミホちゃんがやってきて、次はアイス!とフードコートに向かった。 その後も買い物に連れまわされ、穂波ちゃんち(おにーさんの実家)のパソコンの接続までした俺とおにーさんが家に帰るころには日が完全に沈んでいた。

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