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「ずびっ」
「泣かなくていいって」
「うぅっ、漏らすのはやだってばぁ」
「誠の体だろ」
「そぉ、だけどぉ」
穂高さんは俺の隣に座って、俺の目から溢れた涙を舐めとってくれる。ただこういう時、この人は俺の慰め方をいつだって間違える。
「可愛かった」
「ばかっ!」
ばかばかばかばか。
そんなん言ったって流されないからな!と思っているけど、くたりと預けている体はもう完全に流されていた。
綺麗にシャワーを浴びて、水分をとって、シーツを変えてもらったベッドに沈む。
頭を穂高さんの体にぶつけると、あったかい手が髪を撫でてくれる。その手の心地よさに、おやすみという前に俺は夢の世界に旅立っていた。
翌朝、俺の誕生日当日。
誕生日なのに仕事なんて憂鬱だなぁと体を伸ばして起き上がる。
「おはよぉ」
「おはよう」
朝の挨拶をして、いつものように顔を洗いに行って戻ってくると、さっきまでなかったものがダイニングに乗っている。
綺麗にラッピングされた、そんなに大きくない箱。
「プレゼントだ!!!」
「正解」
「いや、待って!昨日スーツ買ってもらった!」
「あれはあれ、それはそれ」
「………もっと俺は安上がりなやつだよ」
「自分で自分の価値下げんな」
そういうつもりじゃなくてさ。
別にこんなたくさんしてくれなくても十分なんだよ。
一緒に過ごして、ご飯食べて、甘やかしてもらえたらそれでいい。それは俺の紛れもない本音だけど、やっぱり貰えると嬉しいのがプレゼントだ。
「開けていい?」
「いいよ」
するするとリボンを解いて、俺なりに丁寧にラッピングを開ける。
そこにはちょこんとクッションに鎮座する時計がいた。
「腕時計?俺持ってるよ?」
「やたらカジュアルなやつな」
「防水だからバイクも平気!」
「それも防水。スーツ用」
「いつものでいいのに」
「せっかくスーツ整えたんだしついでだろ」
昨日散々聞いた言葉だ。
スーツを買ったんだからと言って靴やらベルトやら、色々と揃えてくれた。
もうどのくらいしたのかを考えるのは放棄した頭だけど、これだけはわかる。
「これ、穂高さんのと似てる」
「誠には俺と同じだとゴツくなるだろ」
まぁねと頷く。
俺と穂高さんじゃ体格が違う。腕の太さだって全然違う。
「誠は全体的に細いから、時計もそのくらいの方がいいかなって」
「同じブランド?」
「そう」
そりゃ似てるわと思う俺に、穂高さんの歪みまくった言葉が聞こえる。
「誠が俺が好きなもの身につけてんのってすっげえ好き」
そうして、さりげなく(?)自分の独占欲も満たしつつ、俺を満足させてるんだから器用な人だなあと思う朝だった。
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