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誕生日当日、朝ごはんは卵かけご飯に具沢山のお味噌汁が出てきて、穂高さんのサービスは今日まで継続してることを知る。 「朝ごはんが豪華ぁ」 「手間は少ねえよ」 「そうなの?」 「俺的には」 それでも俺には豪華!というか好きなものが食卓に並ぶとそれだけで嬉しい。 「今日有給とか使うべきだったぁ」 「それ俺にも言わなきゃ意味ねえよ」 「………せめて今日くらい残業したくないなぁ」 そんな俺の呟きには返事はなかった。 朝ごはんを食べた後はいつも通りバタバタと着替えて、慌ただしく家を出た。 チラリと左腕に目をやると、貰ったばかりの腕時計が光る。穂高さんはこういうセンスがいいと思う。派手ってわけじゃないけど、シンプルイズベストっていうのか、使いやすくて質がいい。 普段の仕事でも、かっちりスーツ決めた日も使える。俺の普段着だとカジュアル過ぎて時計が浮くけど、休みの日なんてまず腕時計は付けない。スマホすぐ見れるし、時間を気にして動くことなんてまずないし。 そう考えるとやっぱり穂高さんって俺のことよく見てる。 そんな朝を過ごして、いつものように原付に跨る。 信号で止まるときにちらっと左腕に目をやると真新しい腕時計がそこに居て、頬が緩む気がした。 そうして会社について、タイムカードを押す。 「おはようございます。ってまこちゃんか」 「おはようございます。早いですね」 「今日ちょっと遠いんだよなぁ」 「そうなんですね。気をつけて行ってきてください」 「まこちゃん!めっちゃ事務的だけどありがとう」 何に触れたのか、すごく喜んでいる山口さんを変なものを見る目で見てる自覚はあるけど、見られている本人は気づいてなさそうなので気にしないことにする。 「多分帰ってきてから検査の依頼かけると思うけど、納期詰めていける?」 「いけないですね。俺今日は早く帰りますよ」 「デート?」 「………」 「そのうざって感じやめよう!?俺傷つくよ?」 そういうのがうざいんですよ、という言葉を飲み込む。 不思議と山口さんがこんなめんどくさい絡み方をしてる相手は俺くらいだ。なんの線引きかわかんないけど、俺以外の人には普通に、どっちかと言えば親切な先輩って感じだ。 「なんで俺にだけこの対応……」 「まこちゃんも俺にくらいでしょ、先輩なのにそんな軽口聞いてるの」 「………そうですけど。半分くらいは俺をからかおうとする山口さんが悪いと思います」 「まこちゃんの反応が良すぎるんだって」 それにため息で返事をして、もう一度今日は早めに帰るので1日長めの納期お願いしますと頭を下げる。 仕方ない、俺は何をどうしたって今日は穂高さんとご飯を食べたい。 きっと今日だって俺の好きなものを作ってくれてる穂高さんと一緒にご飯を食べて、ぎゅってされて寝たい。 「なんでそんなに早く帰りたいの?病気?」 「誕生日くらい仕事したくないじゃないですか」 「誕生日なの!?」 「はい、一応」 「帰りプレゼント買ってくるから待ってて!」 「いらないから寄り道せずにさっさと帰ってきてください」 「辛辣!」 叫ぶ山口さんは無視することにして、俺はよろしくお願いしますと頼んでおく。 寄り道なんかして遅く帰ってくるくらいなら早く帰ってきてどうか俺のことを早く帰らせて欲しい。今日の俺の願いはそれだけだ。

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