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その日はぽつぽつと研究と検査をこなしつつ、新規の依頼を受けたり、新製品に関する質問に答えたりとそれなりに忙しくも落ち着いて仕事をすることができた。 そして、穂高さんが予想したように、やっぱり近い将来に社内向けじゃなく取引先に向けた新製品の発表会なんかはあるらしくて、当然だけど俺もそこに名前を連ねていた。 「………俺、こんなおっきい仕事していいのかなぁ」 「いいんじゃない?」 「うわっ、お帰りなさい」 「ただいまー。まこちゃんお土産」 そう言って渡されたものはやたらと重い。 ちらっと中を覗くと検査依頼書が貼り付けられていて、依頼項目の多さにうんざりする。 ただ、お客さんからしたらこうして最初から考えられる疑問をつぶすような営業さんって信頼できるだろうなって思うから文句は言えない。依頼項目には。 「納期!だから納期!!」 「本当は今週末に欲しかったのを来週にしたんだから偉くない?」 全然偉くない。 だけど今週よりはマシか。金曜と土曜を使えるし、と俺は無茶苦茶な依頼なはずなのに何故かマシな気がしてきて、違う違うと頭を振った。 ここで誤魔化されるから俺は社畜になるんだ!と自分を叱咤した。 「あとこれも。誕プレ的な」 「………ちなみに中身はなんですか」 「なんでそんな疑うんだろうなぁ」 前科があるからだよ。 お礼だなんて言ってゴム渡してくる人だからプレゼントとか言って学生みたいな悪ノリしかねないと思っている。 そして、俺の経験上俺の嫌な予感は大抵当たる。 ちらっと覗いたその先に、見慣れない、だけど知っているものが入ってる。 「やっぱりいらないです」 「なんで!?これこそ使うじゃん!」 「………結構です」 「いや、いるって!ないと痛いよ!?」 「………もうお口チャックしてください」 「いるって!本当に!切れたらどうするの!」 「セクハラがひどぃ」 もう叫ぶ気力もない。 大きな仕事に納期パツパツの仕事、そして先輩社員からのセクハラ。俺の労働環境はもう少し見直されるべきだと思う、特にセクハラ。 「本当にいらないです。どうぞご自身でお使いください」 「1人でやるの勇気いるって知ってた?」 「お願いだからお口閉じてください。俺は何も聞きたくないです」 何、1人でするって。 1人でお尻触るの?俺には絶対無理、怖い。穂高さんにやれって言われて触れたことはあるけど、自分でっていうのは無理。長期出張してた時でさえ、そこを触るのは怖かったし、穂高さんはそれを積極的に教えることはなかった。 「まあ俺のことは置いておいてさ。まこちゃん大事にされてるだろうけどそういう自衛も大事じゃない?ゴムも付けて貰わないと」 真面目な顔してるけど、言ってることはセクハラ以外のなんでもない。俺じゃなかったら訴えられてるぞと睨んでみるけど、山口さんはどうかした?と何食わぬ顔をしている。 「山口さんに心配されなくても、大事にはされてるんで大丈夫です」 「いやいや、生って大事にしてないよ」 だから生じゃないって。 俺が待てなくてそのままでいいってねだったとしても、その後のことを考えて絶対に付けてくれる。 ローションだって、何度したってシーツに垂れるほどに使ってくれる。多くない?って聞いたこともあるけど、それに対する穂高さんの返事は痛いよりマシだろだった(もちろん俺はそれなら噛まないで欲しいと訴えたけど、それは別の話らしい)。 「俺より、山口さんも自分大事にした方がいいですよ」 「結構大事にしてると思うんだけどなぁ」 「体だけで癒されるって、俺はないと思いますよ。癒されたいのって心でしょ?」 「また痛いとこ突いてくるな」 そう言って俺から視線を逸らす山口さんは俺の言いたいことを正しく理解しているんだと思う。 知り合いってほど知ってもないけど、知り合ってしまった変わった人は、体だけの関係で結局余計にボロボロになっていた。その後どうしているのかは知らないけど、あれよりボロボロにならなきゃいいと思う。好きでもないし嫌いでもないけど、傷つけばいいとは俺は思えそうになかった。

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