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まだ試着もしてないというのにどっと疲れが押し寄せるけど、何も気にしてないらしい穂高さんと、気づいてるのか気づいてないのか分からないけど人のいい笑顔を浮かべた店員さんに試着室に押し込まれる。
穂高さんに言われて真夏なのにインナー着てきてよかった。いくらお買い上げしているとは言っても試着だけで洗濯するのはもったいないし。
俺の知らない間にオーダーされていたシャツに腕を通し、ひとつずつボタンを閉めていく。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
閉めるほどに気づいていく。
カッターシャツなんてもっとゆったりしたもんだと思っていたけど、そうじゃなかったらしい。
1番上のボタンまで閉めると、いつもなら指が数本楽に入ったそこは苦しくはないけどしっかりと締まっている。
腕を動かしても窮屈さは感じないのに、今までのゆったりさ、言い換えるとだらしのないゆとりは無い。
こんなに違うの?と思いながらスラックスを履いて、やっぱり驚く。
スーツってこんなだったっけ?もっとゆったり……いや、あれはでかくなっただけかな。どうなんだろう、そもそも痩せる前どんなだったかもよく覚えてないけど、少なくてもこんなにも綺麗に体に合っていたような気はしない。
もちろん、上着だってそうだった。
動かしたからって胸のところが変に広がったりもしないし、余りすぎた生地もない。
試着室の姿見に映る俺は、いつものスーツ姿よりも少し仕事ができそうな気がする(中身は俺だけど)。
「着た、よ」
「腕横に伸ばして」
「こう?」
「ちょっと長いな」
「え、そう?」
ほんとに?と店員さんを見ると静かに頷いていた。
え、俺には全然分かんないけどそうなの?
そのまましていると店員さんがカッターシャツとスーツの袖を軽く伸ばして細かい調整をメモしていく。
「今度はこれ履いて」
そう言って穂高さんが足元に置いたのはスーツと同じく俺の誕プレだった革靴。
これまでの革靴よりもよっぽどいいそれは、永遠に穂高さんに管理をお願いするつもりだ(俺はクリームを塗ったりできないし、磨くなんてもっと無理)。
その靴を履くと、店員さんが俺の足元にしゃがみ込んで長さの調整をしてくれる。
「この前股下も測ってなかった?」
「目安にはしてるけど、ここはちょっと長めに作ってくれるんだよ。実際出来上がったもん着て調整する方が綺麗だしな」
「………」
「どう、いつものスーツより着心地良くね?」
それはその通りなので頷く。
今は試着だからベルトなんてしてないけど、ベルトなしでもずり落ちることのないウエスト。今までのはベルトがないと腰パンなんてひどい事件だった。ずり落ちないために無理に締めていたスラックスも、今着ているものと比べると無様としか言いようがない気がする。
そうして微調整するところを測ってもらって、俺と穂高さんは少しの間店内で待つ。
「きゅんきゅんした?」
「お前のきゅんきゅんがよく分かんねえよ」
「可愛くて心臓握り潰されて死にそうなこと」
「それ共通認識?」
「たぶん?」
「………そうだな、きゅんきゅんはしない」
「そんなばかな!」
俺の人生で1番似合ってたスーツ姿なのに!
「可愛いっていうより、かっこよかったんじゃね?」
「っ、ぅ、あぁもおっ」
ニンマリ笑って楽しそうな顔に俺の方が恥ずかしくなって何も言えずに悶えた。それを見て楽しそうな笑い声がしたから、揶揄われたのは俺の方だったなと思う。
「ほんとだって。似合ってたよ」
優しい顔してそんなことを言われると、今度はなんとなく恥ずかしくなって、俺は赤かなったであろう顔を隠すように俯いてありがとうと呟いた。
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