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三回目のお正月編 7 積み重なる
いや、本当に乱れた浴衣って最高だ。
なんて思うのは、少々オヤジっぽいのかな。いやいや、やっぱりそこは男子の夢で憧れじゃないかな、なんて、大袈裟かもしれないけれど思うんだ。
「お、おはよう……照葉、さん」
だって昨日の君はとっても可愛くて、俺はかなり、ものすごく夢中になってしまったから。
「あ、あのっ、照葉さん」
「うん」
乱れた浴衣で俺の懐の中で身悶えて甘い声をあげる君。
「ねぇ、あのっ昨日は」
「うん」
俺の上に跨って自分で腰をくねらせながら、やらしい顔を見せてくれた君。
あと、やっぱり、あれ。
まさに絶景ってやつだったよ? もう一回見たいなぁと思っちゃうくらい。ものすごくやらしくて可愛くて、何度もしてしまった。
肩から滑り落ちそうで落ちない浴衣の襟とかも最高。けれど、下から突き上げられて、ついにはすべすべした君の肌から滑り落ちて、腰の辺りでくしゃくしゃになってしまった浴衣の感じももちろん最高。
「ねぇ! あの、昨日はねっ」
「うん」
「お酒を、そのっ、ちょっと酔っ払ってて」
あ、確かに。
「いつもより体温高かったね」
「! はっ、あっ、そ、そういうことじゃなくてっ、あのっ、えっと」
熱くて、絡み付いてくる感触はもののすごくて、君の中で溶かされちゃうのかと思った。もしくはあのまま食べられちゃうのかなって。
「あわわ、わ……わ……」
今、パクパクしている口でしてもらった時も、君の舌は熱かったっけ。
――照葉さんの、口でもしたい……これ……照葉さんの……俺がたくさん、気持ち良くしたい。
ありがとう。もう充分、いつもものすごく気持ち良いですって思いました。
柔らかい舌が気持ち良くて、萎めてしゃぶってくれる唇が大胆で、たまらなかったなぁ。
「昨日の公平、やらしくて可愛かった」
「!」
今は肩をぎゅっとすくめて、小さく小さくなりたいと言わんばかりに背中を丸め、シーツに顔を埋めてる。
けれど昨日の君は、いつもよりすこーし大胆だった。
いつもよりすこーし声が大きかった。
いつもよりたくさん乱れてくれた。
でもいつも可愛いよ。可愛くて綺麗だ。
昨日たくさん俺の名前を呼んでくれた唇に、たくさん可愛がって愛してくれた舌に、トロトロになった声を聞かせてくれた君に優しくおはようのキスをした。
「んもぉぉお……」
触れるだけのキス、にしたんだけど。深いのをしてしまうとまた身体の方が素直に反応して、また君に襲いかかりそうだと思ったから。
「照葉さんの……せいだから」
「え? 俺?」
家着持ってくればよかったね。なんか、流石にあんなに皺くちゃにして、しかも、あれがあれでああなっちゃったからさ、そのまま置いておくのは旅館の人に申し訳ないからって、小さなシャワールームで洗ったんだ。そのせいで着る物がなくなってしまった。夜中に浴衣をもう一枚くださいなんて言えないし。でも、暖房がやんわりと入っているし、二人で同じ布団で寝てしまえば全然寒くはないけど。
ただ、今、とっても目に毒だなぁと。
剥き出しの肩も。
昨夜の自分の夢中になりすぎだと叱りつけたくなるくらいのうなじにあるたくさんのキスマークも。
朝の清々しさなんて吹き飛ぶくらいに色っぽくて、見惚れてしまうから。
笑いながら、キスマークだらけの首筋にキスをした。
「あっン」
ただ唇で触れただけなのに。
「んもぉぉぉぉぉっ」
昨日の名残がそうさせるのか、ただ触れただけでも甘い声をあげてしまったことに、自分自身で驚いて真っ赤になりながら、シーツをぎゅっと掴んで顔を埋めてる君が可愛くて可愛くて仕方がなかったんだ。
貸切家族風呂っていうこのスタイルはとってもいいなぁって。だって、これが大浴場と露天風呂が男女一つずつあるような宿だと朝風呂はちょっと行けなかったから。
昨夜の情事を色濃く残した君のヌードなんて見せられない。ぜーったいにダメ。
「ね、だから、絶対に照葉さん狙いだったんだって。もしかしたら追いかけて来たとか」
「えー、それはないでしょ。それに狙われてるのは公平だって」
「ないってば。俺、女には全然」
昨日の夜と朝で合わせて、全ての家族風呂を制覇した。
その最後にもう一度って檜風呂に入ろうとしたところ、偶然にも昨日、公平に声をかけた女性二人組に遭遇した。
あー昨日の! あ、おはようございますー。超偶然ですね。あの、今日って。
そう話しかけようとしていたから。
――とってもいいお湯でしたよ。
そう言って、公平と手を繋いでその場を後にしたんだ。
ナンパなんてさせないさ。手の繋ぎ方だってあえて恋人繋ぎで見せつけてやろう。
彼は俺のものだよって。
俺は彼のものですよって。
「さて、お土産買いに行こうか」
「あ、うん」
永井用じゃなく、奥さん用にお土産を買っていこうかなぁと。それで少し観光して、ゆっくりのんびり帰ります。
帰ったらお正月の準備をしなくちゃ。
それから新年メニューを考えて。
「ね、照葉さん」
「んー?」
「また来たい」
また忙しい毎日だ。君がいて、楽しくて仕方のない毎日だ。
「もちろん、南の島でも北の大地でも、どこでも」
そんなたくさんの楽しいことと嬉しいこととワクワクすることを積み重ねて、積み重ねて。
「一緒に行こう」
君の中に積み重なって、いつか、その下にある辛くて悲しくて寂しかった時間たちの上にどんどん積み重なって、引っ張り出すのは少し骨が折れるくらい奥の方に持っていこう。
「うん」
君が寒い日にも笑顔でいられるように。
思い出すのは寒い日も暑い日も俺と、たくさんの人と過ごした楽しい日々になるように。
――ずっと一緒にいられますように。
ハート型の絵馬にはそんな気持ちを込めた願いを綴ったんだ。
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