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第1話 完璧なる調教 ① 調教のはじまり

「ああ……ユリウス……ユリウス……あなたは……なんて綺麗なんだ……」  (くら)い光のような金髪を悩ましくかきあげ、うっとりと呟くエルンストの声は、まるで何かに酔っているようだった。  実際、酒には酔っているのだろう。  エルンストは、純白の絹のガウンを羽織って長椅子にゆったりと……見方によっては、かなりだらしなく座り、酒瓶から直接口をつけるやり方で、たっぷりと酒を飲んでいた。  最近では、神頼みの古典魔法に代わり、人類が自分の力で手に入れた新魔法、科学が発達し始めている。  人の力で出来ることは、まだ大したことはなかったが、起こりつつある産業革命に、豊かになってきた平民の年収をも軽く超える最高級酒である。  千年続く帝国の始まりから、皇室に最も近い臣下として寄り添って来たカレンベルク家の現当主、エルンストの感覚からしても、かなり高価(たか)い。  皇帝に献上してもなんら見劣りしない酒だ。  本来なら記念日や、正式な晩餐がふさわしいものだが、当のエルンストは全く気にも留めていなかった。  今、エルンストの鮮やかな青色の瞳に映る『モノ』は、帝国の宝物庫に眠るどんな宝よりも美しい。  貴重な『モノ』を鑑賞するに一番に合う酒を探していたら『コレ』に突き当たっただけなのだから。  エルンストは、今、下品になる一歩手前まで贅を尽くした豪華な部屋にいた。  真ん中には、部屋の雰囲気に不釣り合いなベッドが設置されている。  四、五人寝転んでも余るほど広さがあるものの、およそクッションや布と言った柔らかな素材がひとつも存在しない。  むき出しの白大理石の台には、温かなリネン類の代わりに鎖が用意され、ベッドの足にしっかりと固定されている。  一晩の眠りにつくための寝台とは言い難い。  死を約束された生贄をささげる儀式台のように、寒々しいベッド上に『彼』がいた。 『ユリウス』と呼ばれた金髪の青年だ。  一度は名門カレンベルク家の家督を継いだこともある一人前の男だった。  とはいえ。  成人してあまり時が過ぎていないのか、まだ少年の面影が残るほど、若い。  服も下着も全てはぎとられて出て来たのは、引き締まってしなやかな身体と、傷一つ無い滑らかな肌だ。  この先、二度と人間の服を着てはならぬと言い渡され、神が作った彫像のように美しい裸体を彩どるのは、深紅の首輪と武骨な鎖だ。  首輪につけられた鎖の先が、ごく短く寝台の中央にあるフックに取り付けられているため、顔が寝台から持ち上がらないまま、うつ伏せに膝を立てさせられている。  また、別の鎖がユリウスを後手に縛り上げているので、尻を高々と突き出したまま、頬で上半身を支えた状態になっていた。  そんな淫らな姿を強制され、羞恥に震えるユリウスの尻を全裸の大男が(ひざまず)き、貪るように舐めている。  男の名前はバルド。  彼はいつもきちんとした身なりで、主人のユリウスの側に控えていた。  ユリウスを害する敵から身を守る護衛であり、主の行動の便宜を図る忠実な側近だ。  なのにエルンストの命令で、今まで命賭けで守っていたユリウスを汚す。  淫らな道具になり果てたバルドの様子に、エルンストは唇を冷笑の形に釣り上げた。  そう、バルドの本当の身分は『ユリウス』の側近兼護衛役ではない。 『カレンベルク家当主』のモノだったのだ。  ユリウスが当主の座から降りたならば、速やかに次代の当主、エルンストに仕えなければならない。  ……にもかかわらず。  エルンストには自分よりも、当主の座を退いたユリウスの方に忠義をつくしているように見えた。  ユリウスに仕えている期間が長かった、と言えばそうなのだろう。  しかし人目を避けて、二人。  なにやらこそこそと企んでいるのが、エルンストには気に入らなかったのだ。  これは、誰が真の主なのか、バルドに判らせる為の『再教育』だ。  本来優秀なバルドに、ありもしない失態をねつ造し、奴隷落ちした罪人のように鎖で繋ぐことは、出来た。  エルンストが半分裏返った声で追及した、身に覚えのない罪を、バルドは静かに聞いたのだ。  そして、エルンスト自らバルドの(おお)きな裸体に見合う黒い首輪を巻き、片足に鎖のついた足枷で戒めた時も、彼は、大人しくされるままにしていた。  従順なバルドの様子に、エルンストはようやく満足そうな吐息をつく。  バルドの鎖の長さは、口でユリウスの性器を愛するには十分だったが、覆い被さるには、少し短い。  今は、腕を伸ばしてユリウスの胸の飾りに届く程度だ。  しかし、鎖を全部伸ばせば、バルドは自身の太い肉の剣で、ユリウスの花を刺し貫く事ができるだろう。  最初、鎖に繋がれた元の主人であるユリウスを最も淫らに貪れ、との命令にバルドは、困惑していたようだったが、新しい当主の命令は絶対だ。  戸惑ったのか、一瞬息を呑み……しかし新しい主の命令に従うバルドに、エルンストは酷く歪んだ笑みを見せた。 「これで、あなたの忠実な下僕も、僕のものだ」 「エルン……スト!」  高く上げたユリウスの抗議の声を、エルンストは、うるさいな、と、手で遮った。  そして芝居がかって聞こえるほど冷酷な声を出す。 「バルド、もっとだ」 「……っ!」  理不尽な命令に、バルドはユリウスに謝罪らしき言葉を呟きながら、遠慮がちに手と口で触れていた。  だが、命令されるまま、更に激しく性器を舐め上げているうちに、理性が飛んだのだろうか。  側にいるエルンストには聞こえないほどの小声で、ユリウスが呻くように何かを呟いた途端。  バルドは自らの分身を雄々しく、高々と立ちあげると、大きな身体に見合う口と舌で、ユリウスの可憐な花を散らさんばかりの勢いで舐め上げていく。  ぐじゅ……ずりずり……じゅじゅ……っ! 「………っ! ……っ!」  分厚く長い舌が花に突きこまれ、そのたびに淫らな水音は部屋中に響く。  ユリウスは大男の刺激に身悶える。  迫りくる快楽から逃げ出すために、その身を反射的にのけぞらせようとした。  しかし。  首輪についた短い鎖に阻まれ、自由にならない首を激しく振る。  ガシャガシャガシャ……ッ!  水に濡れた獣のように身を震わせても、ユリウスの身を駆け廻る快楽は、和らぐことはない。  ユリウスの分身は、苦しい快楽の暴力に無理やり()たされていた。  尿道には、前立腺まで届く細く長い銀の棒が押し込まれ、吐くべき欲望を押しとどめていた。  しかも根もとの果実が丸ごと二つ。  バルドの大きな口に容赦なく吸い込まれて、ユリウスの目に星が散る。 「~~~~っ!!」  ユリウスは、更に激しく不自由な身体を震わせた。  それでも彼は、叫び声も、喘ぎ声も立てず、ただ鮮やかな青い瞳を見開いて、エルンストを睨む。  人間の尊厳を踏みにじられ、淫らな体勢のまま舌で犯されているユリウスの顔は……いいや背恰好に至るまで、長椅子にだらしなく寝転がっているエルンストと瓜二つだ。  あまりに似すぎている姿は、天に召された彼らの母親でさえ見間違えるほど、見分けるのが難しい。  そう。  寝台に鎖につながれ、淫らな姿をさらけ出しているユリウスは、長椅子に寝転がって酒を飲んでいるエルンストと双子の兄だ。  本来なら何をおいても助けるべき、血を分けた兄弟の窮地を、エルンスト自身が作りあげ、酒を飲んで鑑賞していたのだ。  淫らな仕打ちを受けるユリウスを眺めながら片手で酒瓶に口をつけ、悩ましく髪をかき上げたもう片方の手が、自らの身体の上で『イイ』ところを探し、踊るように触れていた。 「ああ……ユリウス……完璧な……美しい……僕の、兄……」  呟くエルンストのミルク色の肌が上気し、呼吸が乱れているのは酒のせいばかりではない。  また、彼の整った顔と、バランスの完璧に取れた身体に良く似合う、薔薇の花弁をたくさん浮かべた湯に長々と浸かっていたからだけではない。  自分と瓜二つの兄弟の淫らな姿に、酔い、そして火照っていたのだった。  ユリウスの受ける仕打ちを、自分が受けているかのように、エルンストは手でなぞる。  バルドにくまなく舐めあげられて(まと)う唾液や、飛び散る汗。滲みでる体液といった汚いもの、戒めに擦られてできる傷の痛み。  そんなリスクは、全てユリウスに肩代わりさせ、自分は綺麗なまま、安全に快楽だけを求めている。  エルンストが『美しい』と称賛する兄に、自分がそっくりだと言う自覚もある。 『ユリウス』と紡ぐ兄の名も、本当は自分の名前を呼んでいるのと変わりない。  双子の兄に対するこの淫らな仕打ちは、エルンスト自身の欲望を慰める究極の自己愛でしかない。  そう感じてユリウスは、苦しい快楽の下から、唸るように呟いた。 「エルン……スト! お前と……言う……やつは……!」  ともすると、喘ぎ声や、叫び声に変わりかねない喉を操り、無理やり出すユリウスの声に、エルンストは、酔って潤んだ瞳を向けて、微笑んだ。 「やあ、兄上。気分は、どう?  気持ち良すぎて、今にも壊れそうな声をしているところを見ると、調子はいいのかな?」 「……ふざける……な……」 「おや? 兄上は腹を立てているみたいだね?」  ユリウスは、まるで手負いの獣だ。  鎖でつながれ、床に近い低い位置から見上げる兄に向かって『なんで怒っているの?』とでも言うように、エルンストは可愛く小首を傾げた。 「僕は、兄上を助けてあげたって言うのに……?」 「なんだと?」  整った眉を寄せたユリウスに、エルンストは、わざと頬を膨らませ、上機嫌で言った。 「兄上は……父上に殺されるはずだったんだよ?」

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