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第1話
「……は、ぁ……んンッ!」
奥を探る楔がゆっくりと回される。
肌を震わせる自分を契機ととったのか、重点的に攻められる。
「ぁあ、ぁ……あ、あぁ……」
「しぉ、ん……」
潜められる低い声に、うっすらと瞼を持ち上げれば愛おしい姿。
「……あに、き……いぃ、から……イけ、よ……っぁ、ああっ!」
手を伸ばし、自分の内部を苛む男をそそのかす。捉えられた手のひらには、口づけが。
腕を伝い、顔中に降るキスの音。薄く唇を開けば、心得たように貪られる口腔内。
弾かれる胸の頂に、のけぞって散らす髪。
その音さえ、とおい――。
「……ん。あに、き……?」
ぬくもりを求めるも目当てのものにたどり着かず、紫音(しおん)は身体を起こした。肩から滑り落ちる布団。掠れた声と軋む身体によって、昨夜の行為を思い出す。
カーテンの隙間から差し込む光から、それほど遅い時間でないことを知らされる。微かに残る隣のあたたかみも相まって、無意識に急く心のまま気配のするキッチンへと足を進める。
「はよ、兄貴」
「おはよう紫音。まだ寝ていてよかったのに」
振り返った兄はほとんど支度を終えていたようだった。手を伸ばされるは、己の毛先。ふわりと動く彼の香り。
「寝癖ついている。食事はテーブルにある」
「サンキュ」
目を細められ、頬を辿る手のひらにすり寄る。自分を見上げるその背には、夜に付けた爪痕が生々しく残っているだろう。湧き上がる欲望を瞬き一つで押さえ込み、兄の首に掛かっているネクタイに手を伸ばす。
「ああ、ありがとう。……また身長伸びた?」
「近頃測ってないな」
指を滑る、ちいさな布の音が心地よい。
「今日はそんなに遅くならないと思う」
「ああ」
物の整理された静かなリビングに、何でもない会話が行き交う。
ほどよく筋肉のついた身体に、パリッと整えられた清潔な身だしなみ、目尻のちいさな黒子が色気を添える。兄のすべてが紫音を誘う。
「……ん」
一瞬触れ合う唇同士。
ノットの形を整えて、紫音は兄を送り出した。
「いってらっしゃい」
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