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第1話
午前5時。
男は設定していたアラーム音が鳴るのとほぼ同時に起き上がると、2コール目で止めて携帯片手に静かに起き上がる。
少し冷たい水でシャワーを浴び、髪をセットしてから糊付けされたシャツへ腕を通す。
その時間は、僅か30分。
短時間ではあるが、清潔感はしっかりと保っている。
何故なら、主人である白崎春馬(しろさき はるま)に不快感を与えたくないのと、彼の側近として相応しい身なりを心掛けているからだ。
自室の鍵を閉め、男が向かったのは――キッチン。
料理人たちがいなくなったこの場所――正確には、この男が、自分以外の仕える者を全員追い出したことにより、人気がなくなった『この場所』で、彼は静かに紅茶を淹れる。
ポットとカップを1つずつ用意し、ワゴンの上へ乗せ終えると、彼は赤い絨毯が敷かれた廊下をゆっくりと進むのであった。
「春馬様、起床時間です。……春馬様」
コンコン、と2回ノックをしてから声をかける。
しかし、扉の奥からの返答は一向にない。
「失礼致します」
片手でゆっくりと扉を開けると、ワゴンをひきながら部屋の中、主人が眠るベッド脇へと向かう。
「春馬様、時間ですよ」
「……」
「起きてください。それに、そんな風に頭まで布団をかぶって
いると、汗をかいてしまいますよ」
いくら呼びかけても、主人からの返答はやはりない。
「春馬さ――」
再び声をかけると、布団の中から白くて細い手がにゅっと伸びてくる。
男はそのまま腕を掴まれると勢いよく引っ張られ、その場でバランスを崩し主人を押し倒すような形で倒れこんでしまう。
「遅い」
「いつもと同じ時間のはずですが……春馬様がそう感じてしまったのでしたら、申し訳ございません」
鼻先が触れ合う程の至近距離で見つめ合いながら、主人と側近である男――川崎 創(かわさき はじめ)は言葉を交わす。
「別に謝らなくていい。それよりも、早くいつものをしろ」
「はい。仰せのままに……んっ」
「んんっ、んっ……あっ、ぅ、んん――」
はじめは唇と唇が触れ合うだけのもの軽いものだったが、時間が経つにつれて、段々と深いものに変わっていく。
「んっ。……は、じめ……も、……っと」
「仕方ないですね。あと、5分だけですよ」
涙を溜めながら、さらなる快楽を求める主人の命に応えながら、男は心の中で考える。
(やっとここまで、彼を作り上げることができた。でも、まだ足りない。もっと……もっと、
私なしでは生きられない心身にしなくては……)
「ん……、ん゛ああっ!!」
キスを与えるのと同時に、衣服の内側で膨れ上がった彼の乳首を爪で何度も刺激する。
すると主人である春馬は、何度も声にならないような喘ぎ声をあげて、達してしまう。
「はぁ……はぁ……。っ、は……じめ」
「ここにいますよ」
手を伸ばせば、春馬は懐いた猫のように自ら頬を擦り寄せてくる。
瞳を閉じ、安心しきったような表情で掌の温もりを感じる春馬を見下ろしながら、彼は不気味な笑みを浮かべていた。
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