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第2話

川崎創というこの男も、幼い頃は周りの子ども達と同じように可愛げがあった。 「お父様、今日はどこへお出かけですか?」 父親に手をひかれて歩く6歳程の少年は、目を輝かせ胸を躍らせていた。 使用人として、とある屋敷に勤める父親が自宅に帰ってくるのは年に一度あるかないかで こうして自分を外へつれ出してくれるのも、2年ぶりの出来事である。 「水族館? それとも……遊園地? 僕、あれから背が伸びたから、きっとジェットコースターも乗――」 「創、黙りなさい」 「っ!!」 しかし父親から返ってきた言葉、向けられる視線は今までに一度も見たことがない、冷たいものだった。 幼い少年――創は、息を吐くことさえ恐れてしまう。 「……」 「……」 それから2人は言葉を一言も交わず、ただただ目的地に向かって静かに歩き続けた。 「着いたぞ」 父親が言葉を発したのは、あれから20分が経ち、白くて大きな屋敷の前に着いた頃だった。 ここが水族館でも遊園地でもないことは、幼い創でも分かる。 ただ、どうして自分がこんなところへ連れてこられたのかその理由だけが理解出来なかった。 「お父様……ここは?」 「じきに分かる」 壁に備え付けられた液晶画面に、創の父親が指をかざすとギギギギ――と重い音を立てて、目の前にある大きな門が左右に開きだす。 慣れた足取りで敷地に足を踏み込む父親。 彼に腕をひかれた創は小さな歩幅で、そのあとを懸命に追うのであった。 どちらかといえば、川崎の家も裕福な方である。 しかし、今彼がいるこの屋敷は自宅とは比べものにならない程広く、廊下や各部屋には今までに見たことがない骨董品や絵画が飾られていた。 10分ほど屋敷の中を歩いた頃だろうか。 一際目立つ扉の前に到着すると、父親は創の目線の高さにしゃがみこみ、真剣な眼差しで話し始める。 「いいか。お前も今日から6歳だ。川崎家に生まれた者としてこれからはこの屋敷で、1人の仕える者として責任を持ちながら生きていきなさい。この扉の奥には、この白崎家の当主がいる。粗相のないように」 「……」 「分かったら返事をしなさい」 「……はい」 父親は創のワイシャツの襟を直すと、静かに立ち上がり目の前にある扉を2回ノックする。 「入りなさい」 「失礼致します。本日より白崎家に仕えさせていただく息子を――」 父親は創の肩に手を置きながら、息子の紹介を始める。 隣で話す父親の声が、創の耳には何1つ届かない。 突然のこの状況を上手く呑み込めず、ぼーっと立ちつくしていると、父親は彼の頭を掴み主人に対して頭を下げるように促す。 (あぁ。お父様は、僕よりもこのお屋敷の方が大切なんだ……。もう、僕は……自由に生きることは、許されないんだ……) 今後の人生に対してか、それとも……親からの愛を感じられなくなったからか。 今の状況をやっと理解できた創は、この時生まれて初めて『絶望』というものを味わった。

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