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第3話

「にいさま~、かわさき~、早くっ!」 「はい、只今。……春馬様もご一緒に外の空気を吸いませんか?」 「……煩い。俺のことは放っておいて2人で行けばいいだろう」 ある日の昼下がり。 無邪気に屋敷の庭を走りまわる幼い子どもと、不機嫌そうな表情を本で隠す少年の側に川崎はいた。 庭を駆け回る子が自分の見える範囲からいなくならない様気をかけながらも、川崎は少年の元へ近づき声をかける。 「私はおふたりに仕えていますので。春馬様のお傍から離れる訳にはいきません。もし、春馬様が室内でお過ごしになりたいと仰るのであれば、真冬様を説得致しますが、如何なさいますか?」 「お前は真冬の我が儘ではなく、俺の意見のほうを優先すると言うのか?」 「はい。おふたりに仕えているとはいえ、春馬様と過ごした年数の方が長いですからね。兄でもある春馬様の命に従うことを優先させていただきます。真冬様には、秘密ですよ」 私にとって、貴方は特別――。 そんな意味を込め、わざと彼の耳元で囁けば、春馬は顔を赤く染めながらも、満足げな笑みを浮かべる。 「そう言われるのも、悪くないな」 読んでいた本を閉じソファーの上へ置くと、春馬は静かに立ち上がり、庭にいる弟の元へと向かって歩き出した。 「春馬様、よろしいのですか?」 「ここは可愛い可愛い弟のお願いを優先しよう。読書は真冬が昼寝をした後にでもするよ。 ……ほら、お前もぼーっとしてないで早く来い。真冬は、目を離すとすぐに駆け出して、見えなくなってしまうぞ」 「ふふっ、優しいお兄様ですね」 春馬に讃頌する言葉をかけながら静かに微笑むと、2人を見失わないように、川崎も後を追うのであった。 父親に連れられ、白崎の屋敷に来てから早3年。 まだ一人前の側近としては認められていないが勉強も兼ねて、歳がそこまで変わらない白崎家の2人息子、春馬と真冬の付き人として川崎は日々過ごしていた。 5歳になったばかりの、まだまだ甘えたい盛りな弟・真冬と、7歳になったばかりではあるが、次期当主として常に勉学や忍耐力を鍛えられている兄・春馬。 はじめの頃は、父親に無理やり連れてこられたこの場所で、自分の意思と関係なく働かされることに不満を感じていた。 しかし今は、面倒を見つつもこの2人に挟まれることに自身も楽しいと感じられているからこそ、ここで働くこと・春馬と真冬に出会えたことに感謝している。 特に、当主になるために自由を奪われ、日々厳しい教育を受けている兄の春馬に対しては、 どこか自分と重なる部分があると感じる。 それと同時に、今までに味わったことがない、胸の奥が締め付けられるような感情が芽生え、 彼に対して密かに興味をもっていた。

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