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第4話

「もーっ! ふたりとも、遅いよー」 兄を横切り、真冬は川崎の元へとかけていく。 「真冬様、そんなに強く腕を掴まないでください。バランスを崩して、転んでしまいます」 「へいきだよー! もし転んだとしても、ぼくがちゃんと川崎を支えてあげるから!」 純粋な眼差しでこちらを見ながら、腕を引っ張ってくる真冬の手に自らの手を重ねようとした時、パチンという鋭い音を立てて、川崎の手は叩かれた。 「真冬と川崎は身長差があるから、手を繋ぐのは危ないんじゃない? 川崎の言う様に転んでしまうよ」 「そんなことないよー」 「真冬、いいからお兄ちゃんと手を繋ごう」 「えー、おにいさまとは昨日もつないだじゃん。それに、おにいさまと手を繋いだら、川崎がひとりになっちゃうよ?」 「大丈夫だよ。こうして――真冬は私の右手と、川崎は私の左手とこうして繋げばみんな仲良しだろう?」 「わーっ、にいさま頭いいね! さすがです」 疎外感を感じないよう、自らのためにこの提案をしたとは理解ができない弟は、純粋な反応で兄を褒め称える。 「あの約束、忘れたとは言わせないからな」 真冬には気づかれないように川崎の耳元で囁いてから春馬は少しだけ距離を取り、川崎に対して鋭い眼差しで睨みをきかせた。 春馬が口にした『あの約束』とは、数ヶ月前に起きたとある出来事だった。 川崎が使用人としてこの屋敷で務めだしてから、毎朝一番に行うことは、春馬と真冬を起こすことであった。 別室で休む2人の部屋を順に回り、それぞれの身支度を整えてあげたうえで、食卓まで案内することが彼の役目である。 まずは春馬を、その次に春馬と共に真冬の元へ行き、2人で弟の身支度を整えてあげるのが、彼らの日常になっていた。 ――しかし一度だけ、とある理由で部屋の回る順を変えたことがある。 いつも通り、春馬の部屋へ向かっていた川崎。 真冬の部屋の前を通ろうとした時、少しだけ扉をあけてこちらの様子を伺う真冬の姿が目に入った。 「かわ……さき」 「真冬様、そんなところでどうなされましたか?」 「しーっ! にいさまのところへ行く前に、こっちきて」 そう言って部屋の中へ引きずり込まれると、まだ暖かさの残る真冬のベッドへと案内される。 「これ……。こわいゆめ、見ちゃってね……」 「悪夢で魘されてしまったのですね。そのままでは気持ちも悪いでしょう。先に着替えを済ませましょうか」 「うん。でも……これ」 「大丈夫ですよ。私が新しいものへ取り替えておきますから」 「みんなには言わないでくれる?」 「ええ。これは、私と真冬様だけの秘密にしておきましょう」 「かわさき、ありがとうっ!」 部屋に設置されている浴室に真冬を連れて行き、身体を綺麗に洗い流してあげてから、真新しい服へと慣れた手つきで着替えさせてあげる。 その後、おねしょで汚してしまったシーツを新しいものへと瞬時に取り替えてあげた。

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