1 / 7

第1話

世の中は不公平だと思う。 なぜ、「できるやつ」と「できないやつ」がいるのか。 なぜ、「者」と「者」がいるのか。 『……調べによると、被害者のαの男性は犯人のΩと面識がありβだと聞いていたとのことです。これはバース性を偽って男性に近づいたということですよね?』 朝のニュースではつい先日起こった「Ωの男が知人のαの男の前で発情期(ヒート)を起こし襲った」という事件について議論が交わされていた。 『そうですねぇ。バース性を偽るだなんて…酷いですよねぇ〜。ずっと相手のことを騙してたなんて』 『それにまず抑制剤があるんだから、きちんと管理をして欲しいものです』 『このΩは抑制剤を飲んでいなかったんでしょうか?』 『服用していても用法、用量を間違えるとあり得ると思います。』 アナウンサーの疑問に答えたのは、バース性専門の医者だった。 『バース性をβだと偽っていたとすると、おそらくこのΩの男性は抑制剤を過剰摂取したんだと思います。吐き気など副作用もあったはずです。長期間それを続けた結果、周期が乱れ突発的に発情期(ヒート)が起こったと考えられます。』 『なんというか…迷惑な話ですね。』 何かの評論家が言ったため息混じりの言葉が、勝手に頭の中に刻まれていく。 「あのぅ…」と小さく声を発したのは、ゲストで出ていたタレントだった。 たしかβだっけ。 『このお二人って仲が良かったんですよね?正直に話そうとは思わなかったのかなあって…』 思わず箸を持つ手を止めた。 マジかこの女、って呆れたからだ。 『正直に話されてもねえ……Ωでしょう』 苦笑しながら呟くように言った評論家の反応は当然のものだ。 この世の中、Ωってだけで疎まれ蔑まされるんだから。 分かってるから黙っててくれよと思いながらテレビの電源を切る。 次に頭に浮かんだのは医者の話だった。 抑制剤の過剰摂取が原因で周期が乱れる、か。 気をつけないとな…。 結局残った朝飯をラップで包んで冷蔵庫にしまった。

ともだちにシェアしよう!