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第2話

大学の講義室に入り席に座ると、すぐに友人が隣に来た。 「なあ裕太(ゆうた)、こないだ話してた飲み会どうよ、行かね?」 「あー…忘れてたわ」 「はあ、お前な…武川大の女子と飲めるんだよ?せっかくバイト仲間つながりでセッティングしたってのに」 「ごめんごめん、バイト忙しくて頭から抜けてた」 友人に少しの罪悪感を感じてもスルーすることに慣れたのはいつだったか。 「ま、いいけど。裕太、α苦手だろ?向こうのメンバー全員βだから安心しなさい。ってことで来るだろ?」 「行くよ。メンバーβで揃えてくれたし、ありがとな」 「別にいいって。俺もαに憧れててもなんか近寄りがたいとこあるしさ。やっぱ俺らみたいな凡人には凡人が一番落ち着くわー」 友人の言っていることは正しい。 βにはβがお似合いだ。 何にも縛られず、気にすることなく好きなように生きていける。 一番気楽な性だ。 友人と話していると教授が講義室に入ってきて、はきはきした足取りで教壇に向かっていった。 眉間にしわが寄ってる顔は、初めての講義で見た時から変わっていない。 この人もβらしいけど俺は嫌いだ。 「水無瀬(みなせ)は?」 さっと席全体を見渡してから教授が口にしたのは俺と同じ一年の男のΩの名前だった。 また始まった。 なんで休みなのかなんて、皆分かってる。 離れた席からアレだよな、だの笑い声も聞こえてくる。 だから嫌なんだ、この人の授業は。 知ってるのにわざわざ名前を口に出すから。 「わざわざ言わなくたっていいだろ…」 隣で友人がぼそっと何か呟いていたけど、それを気にする余裕がなくなっていた。 ああ、くそ――こんな時に。 嫌な気分になったせいか本当に気分が悪くなってきた。 友人はすぐ俺の様子に気づいたのか「大丈夫か」と言い、せり上がってきそうな吐き気に我慢できそうになかった俺は短く謝ってトイレへ行った。 世間にとってΩは厄介者。 誰彼構わず発情して誘惑する卑しい生き物。 生きていくためには嘘をつかなきゃやっていけない。 俺みたいに。 また朝飯をもどしてしまった。 今日はアイツの作った飯だからいけるかと思ったんだけどな。

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