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第3話

その後も体調が戻らず、心配性の気がある友人に言われるまま家に帰った。 最初は大丈夫だろうと思ってたけど、家に近づくたびにだんだんそれとは反対のことを考えるようになった。 なんか…本当にヤバいかもしれない。 耳がぐわんぐわん鳴ってる気がするし、頭痛も酷い。 あと、寒い。 やっと家の中に入った途端、足の力が抜けて玄関で倒れてしまった。 「いっ…て、」 怠い。 起き上がるのも億劫だ。 こんな一気に不調があらわれたのは初めてだと思う。 誰か――。 一瞬浮かんだ顔を必死に取り消す。 ダメだ、自分で何とかするんだ。 誰も頼るな。 俺は… 「…裕太!」 急に聴こえてきた声にひどく安心して、俺はまた頼ってしまう自分にがっかりした。 *** 目が覚めると視界に広がった、白色。 …天井か? そこで自分が布団で寝ていることに気づいた。 いつからだ。 しかもいい匂いがする。 誰か…、アイツがいる? 「あ、起きた?」 声の方を見ると、想像した通り、幼馴染がいた。 「朝陽(あさひ)…?」 「びっくりしたよ、ドア開けたら裕太倒れてて 確かめたら熱あるし」 そう言いながら、心底心配したという表情を浮かべて傍に来てくれた。 手には小さい鍋を乗せた盆を持っていて、いい匂いの正体はこれだったかと思った。 「…なんで来たんだよ」 「昨日朝飯作っといただろ?ちゃんと食べてるか確認しようと思って」 「お前は母親か」 「裕太が食べないからだろ。放ってたらすぐこうなんだから」 ため息混じりに言うと、すぐに言い返される。 間違ったことではないため何も言えない。 朝陽は俺より3つ年上のβで、普通のサラリーマンだ。 実家が隣同士、子どもの頃から一緒に遊んでくれて、一人っ子の俺にとって兄ちゃんみたいな存在だった。 家を出て、ますますきちんと食事をしない俺をほっとけないと言ってたまに作りに来る。 「うざい…」 「なんて?」 「別に」 言ったって聞きやしない。 「仕事サボってんなよ」 「ここに来たのは昼休みだよ。今は休み取ったけど」 「は?」 何それ。 じゃあ、サボりで俺の面倒見てたってことじゃないか。 「ふざけんな、帰れ」 「え?なんで」 「帰れよ!お前に面倒見てもらっ…」 言葉は咳に阻まれて続かなかった。 朝陽は、体調悪いのに大声出すから、なんて言って背中をさすってくれる。 大きな手で温かった。 「うどん作ったから食べよう」 結局こうなってしまった。 朝陽に面倒見てもらえるたびに情けなくなる。 自分で思うのもなんだけど、昔から朝陽は俺に優しい。 元々の性格かもしれないけど、誰にでもそうなのかもしれないけど、優しい。 情けないと思っているのに俺はそれを失わないために朝陽まで騙している。 『俺、本当はβじゃなくてΩなんだ。』 やっぱりΩは卑怯で卑しい生き物だ。

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