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第1話

ガッシャーンッ 「も、申し訳ありません!すぐに拭くものをお持ちします!」 やばい、やらかした。今、目の前に広がっている光景は僕の死を意味していた。 事の発端は数時間前に遡る。 いつもの様にバイトに来て着替えをしていたら店長が焦った様子で更衣室に走ってきた。 「れ、伶君!君、この後の19時からのシフトだよね?」 「え、はい。そうですけど。どうかしたんですか?」 「この後、天羽組(あもうぐみ)の会長が来ることになったから。接客頼んだよ。」 「天羽組ってあの天羽組ですか!?」 「ほかに何の天羽組があるんだ。とりあえず頼んだよ。僕は急用ができたから帰るから。」 「ちょ、ちょっと待ってください!店長!」 そういうと店長はそそくさと帰り支度をして帰ってしまった。 ・・・嘘でしょ。天羽組といえば全国屈指の暴力団だ。そこの会長といえば道でぶつかった人を海に沈めたとか沈めないとか怖い噂が流れてる。その人がここに来るの? それで店長はビビッて帰ったの?僕はどうしたらいいの?下手したら沈められる。慎重にやらなくては。とか思ってたのが数十分前。そして今目の前に広がっているのは膝にかかったスープを怖い顔して拭かれている天羽組会長。 そしてその会長はさっきから平謝りをする僕の顔をじっと見ている。 ・・・・死んだな。 しばらく謝っていると会長さんが口を開いた。 「おい。そこのお前。名前は何という?」 ・・僕?沈める前に名前ぐらい覚えてやる的な? 「き、如月伶(きさらぎれい)と申します。」 「そうか。それでは伶。ここの仕事は何時に終わる?」 ・・・あー。これマジで沈められるやつだ。 「へ、閉店までなので、22時までです。」 「分かった。それなら閉店まで待っていよう。 シフトが終わったら着替えてここに来い。」 周りの護衛みたいな人たちがびっくりしてるけど、大丈夫なのかな。 あと閉店まで1時間半あるから何しようかな。遺書を書くにしても、相手がいないし。 ・・僕の寿命はあと1時間半か。好きなことしよう。 案外1時間半というのはあっという間で、すぐに閉店の時間がやってきた。 僕は言われたとおりに着替えて会長さんのもとに行く。 死ぬ前に新しい服買いたかったなあ。 会長さんは護衛みたいな人と話していた。 「・・・あ、あの。お待たせしました。」 そういうと会長さんはこっちを振り向いた。 会長さんイケメンだなあ。 「じゃあ行くか。そういえば、なかなか美味かったぞ。」 「・・え?」 何言っているんだろう。 「何がえ?なんだ。料理が美味かったと言っている。」 「え、あ、ありがとうございます?」 「ふっなんで疑問形なんだ」 笑った。会長さんが。なんて綺麗に笑うんだろう。 「行くぞ。」 そうして僕は黒塗りのいかにもという感じの高級車に乗せられた。 でもどんどん海から離れて行ってる。海じゃないのかな。そんなことを考えている間に車は 豪華なマンションの前に止まった。 「着いたぞ。降りろ」 言われるがまま降りると車は走り去っていき、僕と会長さんと護衛の方々はそのままマンションの中に入って行った。そしてエレベーターの中に僕ら二人が入ると、会長さんが言った。 「ここまででいいぞ。ご苦労だったな。」 「「お疲れ様でした!」」 エレベーターの扉が閉まると僕は思い切って会長さんに聞いてみた。 「あ、あの、ここはどこですか?」 「見て分からないか?俺の自宅だ。」 「なんで僕を連れてきたんですか?」 「提案があったからだ」 会長さんがそう言った直後にエレベーターのドアが開いた。 「ここに住まないか?俺のパートナーとして。」

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