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第2話

「ここに住まないか?俺のパートナーとして。」 ・・・ん?何言ってるんだろう。この人は。 「住むってどういうことですか?」 「言葉通りの意味だな。」 「僕、海に沈められるんじゃないんですか?」 「・・はぁ?」 会長さんは意味が分からないとでもいうように片眉をあげた。 「とりあえず、座ったらどうだ?」 会長さんの一言で、玄関にいた僕らは、リビングに入った。 「・・・す、すっごぉい!!!」 そこには普通の家の何倍もあるような広いリビングが広がっていた。 高級感の漂う家具の数々に、窓の外には綺麗な夜景もみることができた。 しばらく夜景を堪能させてもらい、会長さんのもとに戻った。 「もういいのか?」 「はい。とっても綺麗な夜景ですね。」 「気に入ったなら良かった。・・・そうしたら本題に移るが、いいか?」 そうだった。僕は夜景を見にきたんじゃなかった。 「はい。大丈夫です。」 「あの時、伶が俺にスープをこぼした時だ。俺はお前を一目見て、こいつと共に生涯を過ごしたいと思ったんだ。いわゆる、一目惚れだな。」 「それにしては怖い顔してましたけど。海に沈められるのかと思いました。」 「怖がらせたのなら悪かった。・・知っていると思うが、俺はヤクザだ。天羽組の会長をしている。もし、伶が俺と共にいるとなれば、伶に手を出そうとする奴らもいるだろう。だが、俺はお前を死んでも守り抜く覚悟はできている。 伶。俺と共に生涯を歩んでくれないか?」 ああ。こんなにまっすぐ僕の目を見て話してくれる人はいつぶりだろうか。 天羽会の会長と呼ばれ、怖い噂もたくさんあるけど、僕はこの人を悪い人だと思うことができなかった。それほどこの人は真っ直ぐな力のある目をしていた。 「・・・・・・・わかりました。でも、僕の話を聞いてください。 あなたがあのレストランに来て、僕がスープをこぼした時、本当に殺されると思いました。 ・・・でも僕は怖いという感情が湧いてこなかった。逆に、安心してしまった僕がいたんです。」 「安心?」 会長さんがいぶかしげな目をして僕のことを見た。 「はい。もう終わりにできるんだと思って。 僕の両親は僕が高校に入学した直後に事故で亡くなりました。親戚付き合いもあまりなかったので、僕一人で生きていくしかなかったんです。高校を辞めて毎日バイトをしました。でも、中学卒業の学歴しかない僕はあまり稼ぐことができず、生活費を払うので精一杯でした。なので、今僕は手持ちのお金はほとんどありません。高校も出ていないので学歴もありません。そして、身寄りもありません。だったら死んでも誰も悲しまないんじゃないかって思っていたんです。だから、あなたが殺してくれると思って安心したんです。 僕はこの通り何も持っていません。・・でも、あなたは違う。天羽会のトップです。僕なんかと一緒になったらいろんな人に笑われてしまうかもしれない。僕の存在はあなたの不利益になってしまうかもしれない。それでもあなたはさっきの言葉を守ってくれますか?」 一通り話し終わった僕は、会長さんを見た。やっぱり無理と言われてもしょうがないと思っていた。でも、会長さんは僕の目をまっすぐ見て、綺麗にほほ笑んだ。 「笑いたい奴には笑わせておけばいいさ。俺はお前に惚れたんだ。守ろう。約束だ。俺はお前を生涯守り抜く。だから、自分なんかとは絶対に言うな。俺がついているんだ。俺は、たとえ世界が敵に回ったとしてもお前の味方でいてやる。だから、自分に自信を持て。 いいか?伶。」 その言葉を聞いたとたんに涙が流れてきて、次の瞬間、僕は会長さんの腕の中にいた。 「よく頑張ったな。伶。」 そう言いながら頭をなでられて、僕は久しぶりに小さな子供のように声を上げて泣いた。 僕が泣き止むまで会長さんは頭をなでてくれていた。 「落ち着いたか?」 「はい。ありがとうございました。」 「それなら、寝るか。」 時計を見ると、もう深夜2時を回ったところだった。 「寝る服を貸してやろう。俺のだから少し大きいかもしれないが。着てみろ。」 着てみると、案の定ぶかぶかで、おばけみたいになってしまった。 「あ、あの、会長さん?やっぱり大きいです。」 「今日はしょうがないからそれで寝ろ。明日買いに行かせる。」 「わざわざ買いに行って頂かなくても、僕の家にありますよ?」 「俺からのプレゼントということにでもしておいてくれ。 あと、喋り方は別に敬語じゃなくていいぞ?というか止めてくれ。」 「でも、組の人たちは敬語でしょう?」 「伶は組の人間ではないだろう?」 「そっか。分かりました・・・じゃなくて、分かった。」 「そういえば、俺の名前言ってないよな。天羽龍也(あもうりゅうや)という。 龍也とでも呼んでくれ。」 「・・・龍也さん」 「じゃあ、寝るか。」 「おやすみ。龍也さん。」 「おやすみ。伶。」 龍也さんの腕の中では、久しぶりによく眠れる気がした。

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