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第68話

「龍也さん!見て!ペンギンのショーがあるらしいよ!見に行こ!」 「構わないぞ。もう会場に行くか?」 「今から行って前のほうの席取りたい!」 「わかった。行くか」 水槽を半分ぐらい回ったところで見つけたペンギンショーのポスターを見て、僕たちは一旦ペンギンショーを見に行くことにした。 会場に着くとまだ開演まで30分近くあるのにそれなりの人が入っていた。 「もう前のほうの席だいぶ埋まってるね」 「ああ。伶、あの辺りでどうだ?」 龍也さんが指さしたほうにはまだいくつか開いている席があった。 「いいね!行こう!」 無事席をゲットし龍也さんと開演まで雑談をして時間をつぶす。 「伶、昼は何が食べたい?このショーが終わるとちょうど昼時だろう」 「あ、そっか。何がいいだろうな」 うーんと頭を悩ませていると声をかけられた。 「すいません。お隣いいですか?どこも開いてなくて」 少し気まずそうに声をかけてきたのは大きなサングラスをかけた女の人だった。 「あ、もちろんです!お気になさらないでください」 「ありがとうございます、私ペンギンが大好きでどうしてもこのショーが見たかったんですけど仕事の関係で来るのが遅くなってしまって。もう前のほうは座れないかと思っていたんですけど良かった~」 「ペンギンかわいいですもんね、今までお仕事されてたんですか?お疲れ様です」 「ええ、急いで終わらせてきたんですよ」 疲れた~と言ってサングラスを取った女の人の顔には見覚えがあった。 「あ!さっきテレビの収録してましたよね!僕見かけました!」 「ほんとですか?オンエアも見てくださいね!あ、自己紹介させてください。私ミレイって言います」 「モデルさんですよね!テレビで見たことあります」 「知ってくださってるんですね、ありがとうございます」 そんな会話をしていると、龍也さんが僕に話しかけてきた。 「伶、そろそろ始まるぞ」 「ほんとだ、楽しみだね龍也さん!」 「ああ」 「すいませんお連れ様と長々と喋ってしまって」 龍也さんにミレイさんが軽く謝る。 「いや、構わない」 ミレイさんの言葉に龍也さんがぶっきらぼうに返事をする。もっと愛想よくすればいいのにと思っていると、開演のアナウンスがかかったので静かにしていようと口をつぐんだ。 「うわぁ!かわいい!」 ショーが始まると同時にぴょこぴょこと飼育員さんに連れられて歩いてきたペンギンたちに笑みがこぼれる。 ショーが問題なく進行していき、終盤に差し掛かったころにペンギンの近くまで写真を撮りに行ける時間があった。僕が行きたそうにうずうずしていたのを見かねて、龍也さんから行ってこいと送り出されたので遠慮なく写真を撮りに行く。あまりのペンギンたちの可愛さに満足のいくまで連写して、席に戻ろうと後ろの龍也さんのほうを振り向くと何やら不機嫌そうな顔をしていた。 「ただいま~!見て見て!可愛くない?」 僕が戻ると龍也さんの表情もいつも通りに戻ったからさっきの不機嫌そうな顔は気のせいだったことにして、撮った写真を龍也さんに見せる。 「よく撮れてるじゃないか」 「でしょ!カメラマンの才能あるかもしれない僕」 「それはないな」 「なんでよ!?」 ぷくっと僕がむくれると隣から吹き出す音が聞こえてきた。 「あははっ、すいません。聞くつもりはなかったんですけど、我慢できませんでした」 僕の隣でミレイさんが僕たちの会話が面白かったらしく笑い始めた。 「仲がいいんですね」 「あはは…まぁ」 聞かれたことがちょっと恥ずかしくて苦笑いを返す。 「そうだな。俺と伶はとっても仲良しだもんな?伶」 「ちょっと!何言ってんの!?」 龍也さんが僕の後ろから僕の腰を抱くようにして言うからびっくりして素っ頓狂な声が出る。 「…本当に仲がよさそうで羨ましいです」 ミレイさんが微笑みながら言った。でも、さっきまでの笑顔と何か違う気がするのは気のせいなのだろうか。 「ショー楽しかったね~」 「いつになくハイテンションな伶が可愛かったな」 「はぁ!?ほんとにこんなところで何言ってんの!?」 「いいだろう、どうせ誰も聞いていない」 「そうだろうけどさ!腰に腕回すのやめてってば!」 ショーが終わり、会場を出た辺りで龍也さんと押し問答をする。 「そういえば、昼何がいいか決めたか?」 「水族館の中にあるレストランとかどう?入り口でもらったパンフレットに書いてあったオムライスが美味しそうだったんだ」 「わかった。じゃあ行くか」 龍也さんとレストランに入り、僕はオムライスを注文して龍也さんはなぜかコーヒーだけを頼んでいた。 「龍也さんお腹空いてないの?」 「ああ、俺のことは気にするな」 「そんなコーヒー飲むと僕がおごる分飲めなくなっちゃうよ?」 「ああ、そんなこと言ったな」 「絶対おごるからね」 「お前は頑固だな」 「頑固で結構です」 苦笑いする龍也さんの前でオムライスを口に運ぶ。とろとろの卵が上に乗っていてとっても美味しい。 「オムライス一口食べる?おいしいよ」 「伶がくれるというなら断るわけがないだろう」 「あー」 スプーンにオムライスをすくって龍也さんに差し出す。龍也さんは一瞬目を見開いて驚いたような顔をしてからニヤッと笑った。 「あーんを伶からしてくれるとは思わなかったな」 「!!!…なーんてね、はい、自分でどうぞ」 龍也さんが僕が降ろそうとした腕をつかんでパクっとオムライスを食べた。 「ん、うまいな」 「~~~っもおお!!」 僕の顔がみるみる赤くなっていくのが自分でもわかった。 「ほら、伶。早く食べろ」 「言われなくたって食べます!」 「そうか、それは失礼した」 あたふたしている僕を心底楽しそうに龍也さんが見てくる。結局、食べた気がしないぐらい急いでオムライスを食べてレストランを出た。 「もう一度水槽を見に行くか?」 「うん!」 水槽に向かう僕と龍也さんの少し後ろを付いてきている人がいるなんて僕は知る由もなかった。

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