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第67話
「すごいね!大きい!」
車をしばらく走らせて水族館に着き、車から降りるとすごくきれいな建物が目の前にあった。
「最近できた水族館で話題になっているらしい。この前椎名が言っていてな。水族館ならちょうどいいと思ったんだが、ここでよかったか?」
「もちろんだよ!ありがとう、龍也さん!」
「そうか、中に入るか」
「うん!」
いつの間に買ってきていたのかチケットを二人分もって龍也さんが僕の前を歩いていくから僕も走って龍也さんを追いかけた。
「龍也さん何見たい?」
入り口でもらったマップを見ながら龍也さんに視線を移す。
「伶の好きなところを見て回ったらいい」
「じゃあ、右側の通路からぐるっと回ろうよ。そしたら全部見れる」
「ああ、じゃあ行くか」
「待って!」
「どうした」
「あのぬいぐるみ龍也さんに似ててかわいい…」
「は?」
僕の視線の先にいたのは入り口の隣の売店で売られているサメのぬいぐるみ。目がきりっとしていてなんとなく龍也さんに似てる気がする。
「あれが俺に似てるのか?」
「うん、なんとなく」
「俺はあんなにのほほんとした顔してないと思うんだがな」
「ちょっと見に行こうよ」
龍也さんの手を引いて売店に入っていく。
「ほら!目がきりっとしててさ龍也さんっぽい」
「そうか?」
龍也さんの顔と並べてそのぬいぐるみを掲げてみるとやっぱりなんとなく龍也さんに似ている気がする。
「これだけ買ってきてもいい?」
「荷物になるだろう?これから館内を回るんじゃないのか」
「でも、誰かに買われちゃうかもしれないし…だめ?」
「はぁ、ほら貸せ」
龍也さんが僕の手からぬいぐるみを奪い、レジに持っていく。
「ああ、待って、僕が買うよ」
「財布をしまえ。俺が払う」
僕が払おうと躍起になっているのに対し、龍也さんは涼しい顔でパパっと会計を済ませてしまった。
「僕が払いたかったのに!」
「男を立てるのも大切だぞ伶」
「僕も男だもん!!」
「わかったわかった。じゃあ後でコーヒーでもおごってくれ。ほら」
ぷくっと口を膨らませていじける僕にぬいぐるみを渡してくる。
「俺に似てるんだろう?大事に持っててくれよ?」
顔を近づけて微笑みながら言うもんだから僕は何も言えなくなってしまう。
「…絶対、いつか龍也さんのこと真っ赤にするようなこと言えるようになるからね」
「ははっそうか。楽しみにしている」
「信じてないでしょ!」
「信じてるよ」
笑いがこらえきれないとでも言うように笑っている龍也さんにムッとしていると、龍也さんが頭をクシャっとなでてじゃあ行くかと僕の手を握って言った。
しばらく水槽を見ながら進んでいくと人だかりが見えた。
「こちら、先月オープンした水族館になります!種類豊富なかわいい魚たちが泳いでいますね。ぜひテレビでご覧の皆様も足を運んでみてください!」
近づいて行ってみるとテレビの取材のようだった。
「テレビの取材も来てるんだね」
「そうみたいだな」
「リポートしてる人見たことあるよ。えっと、最近人気のモデルさんだっけ」
「ほぉ、あんな奴がお前のタイプか?」
「は!?違うって!テレビ見てたら出てたの!それだけ!」
ニヤニヤいじわるな笑みを浮かべながら僕に聞いてくる龍也さんに慌てて返事をする。
「そうかそうか。伶のタイプは俺だもんな」
耳元でささやくみたいに言われて顔が急激に熱くなるのを感じる。
「~~っちょっと静かにして!」
「はははっ、ほんとにお前は飽きないな」
「もー行くよ!」
「わかったよ」
龍也さんの手を取って歩き出すと龍也さんもついてくる。テレビの取材をしている位置を通り過ぎた辺りで誰かの冷たい視線を感じて勢いよく振り向く。
「伶、どうした?」
「…ううん、何でもない!気のせいだったみたい、ごめん。行こ!」
「ああ」
僕は逃げるように速足でその場を後にした。
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