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第66話
「おはよぉ......?りゅうやさん?」
ゆっくりと目を開けて、隣を見ると龍也さんはもういなかった。体を起こすと頭痛もだいぶ収まっていることが分かった。床に足を下ろし、恐る恐る体重をかけていくとちゃんと立つことができたので一安心する。寝室の扉を開けてリビングを覗くと、キッチンでコーヒーを入れている龍也さんが見えた。
「龍也さん」
名前を呼びながらのそのそ近づいていくと、龍也さんも気づいたようで僕のほうに視線を向ける。
「おはよう、伶。体調はどうだ?」
「もう大丈夫。ごめんね、看病させちゃって」
「伶の体調が戻るならいくらでもしてやる」
僕の頭をクシャっとなでて微笑む龍也さんに抱き着く。よろけることもなく抱き留めてくれる龍也さんにいとおしさが募る。
「...大好きだよ」
龍也さんの胸に顔をうずめて小さい声で言う。しばらくしても何の反応もないのでチラッと龍也さんの顔をうかがうと、僕のほうを見ていた龍也さんと目が合った。
「ん?なんだ?聞こえなかった、もう一度俺の顔を見て言ってくれるか」
ニヤッといじわるな笑みを浮かべているところからして絶対に聞こえていたと思う。ムッとして龍也さんを見ると頬を両手で挟まれて顔を背けられなくされる。
「で?なんだって?伶」
「~~~っいじわる嫌い!」
顔に熱が集中するのが分かって、力いっぱい龍也さんから顔を背ける。
「愛してるよ、伶」
龍也さんが僕の髪に軽いキスを落とす。とてつもなく恥ずかしくて龍也さんの胸に顔をぐりぐりと押し付ける。
「......僕も」
小さい声でぼそっと言うと、龍也さんの手が僕の頭を優しくなでたから多分聞こえてたんだと思う。
「何か飲むか?俺はコーヒーを入れたが、伶は飲めないだろう?」
「カフェオレ…甘いやつ」
「わかった」
僕がダイニングテーブルに座ってぼーっとしていると、龍也さんが僕の前に温かいカフェオレを持ってきて僕の向かいに座った。
「体調はもう大丈夫なんだな?」
「うん、もうよくなったみたい」
僕の顔をじっと見つめてくる龍也さんに何?と聞く。
「おまえ、金曜日の朝から具合悪いのわかってただろ」
「え”」
「なんで言わなかった?」
答えないことは許さないといわんばかりの気迫に目線が泳ぐ。
「伶、答えろ」
「だって、だって、龍也さんあの商談のために頑張ってたし、心配かけたくなかったし、それにデートだって…」
僕の声はどんどん尻すぼみになっていった。
「伶が倒れたという連絡が来たのは商談が終わった直後だったが、もしこの連絡が商談中に来ていたら俺は商談なぞ放り出して帰ってくるぞ。それに、あの熱でデートなんて行けるわけがないだろう」
「でも…でも、」
「しかし…伶が俺のために我慢してくれたというのはよくわかった。風邪をひく前から寂しい思いをさせてしまったからな。今日と明日は完全にオフだ。体調がもういいならどこかに行くか?」
「デート!」
「ああ、デートだ」
「行く!行きたい!僕着替えてくる」
どたどたと走り、寝室に行って前からデートの時用にと選んでおいた服をタンスから引っ張り出して着る。急いでリビングに戻ると龍也さんもカジュアルな服に着替え終わっていた。
「どこに行きたいか決まってるか?それともドライブするか?」
「僕水族館行きたいの」
「水族館か、分かった。ほら、車に乗れ」
車に乗ると龍也さんが運転席に乗り込んで車が発進する。
「どこの水族館か指定はあるか?」
「ううん、あんまりないかな」
「そうか、音楽聞きたかったらかけてもいいぞ」
「はーい」
車についているナビを操作して音楽をかける。
「いい天気だねえ」
「そうだな」
特に意味のない会話をしながら、僕たちのデートは始まった。
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