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*見つめる花火*
ポーン。パーン。火薬の塊が夏の海の上を緑や紫に染める。
「あら、樹くん」
「あ、おばさん、こんばんは。この人込みで会うなんて奇跡ですね」
夏なのにそれほど日焼けをしていなく、目にかかりそうな前髪を軽く上げて少年は顔見知りだろう中年の女性に微笑んだ。
「でも一つは十月でしょう?秋の花火って盛り上がらないわあ」
「しょうがないよおばさん。ここ有名な海水浴場三つもあるし、
花火大会だってレジャー情報誌に載るくらいなんだから、
警備と整備が間に合わないさ」
「まあねえ。暑い中見るのがいいんだけどねえ」
「無くなるよりはいいじゃない。じゃあ、
オレ友達の所に行くね」
「いってらっしゃい。人混みに気を付けてね」
女性に会釈をすると少年は人波に消えていった。
海岸沿いの国道でクラスメイト達が集まってきて樹を探していた。
「夜なのに暑いよな。もう花火が始まってるんだけど、樹とか来てるかな。合流できるか呼んでみるか」
少年がスマホに手をかける。
「止めておきなよ。樹きっと来ているよ」
浴衣の少女二人にそっと遮られる。
少女たちはなぜ樹が友人たちと行動を共にしていないか感じ取っているようだった。
「それとも両手に花じゃご不満?」
少しいじわるそうに笑いかけた。
「やっ、そんな事ないって。光栄っす」
少年はあわてて場を繕った。
その頃、樹は靴を脱いで人混みの方向に逆らうように歩き、砂浜から岩はだへ落ちないように進み、足の裏が少し痛い岩場に出てくるとそこにはすでに先客がいた。
「樹?」
「妙子、やっぱりここだと思ったよ」
「何でわかったの」
樹は打ち寄せてくる小さい波に足をゆだねている明るい茶色い髪ではっきりとした二重の妙子に声をかけた。
「ここに?オレ地元っ子ですけど。それに妙子だってあんなビーチで騒いでいる人達のところにはいたくないでしょう」
樹と妙子とそれぞれの恋人たちと楽しんだ夏の海の日。事故は起きた。誰にも止められないし助けようもない。叫んだ声も届かなかった突然の離岸流。
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