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*送る花火*

妙子は運がよかった。モーターバイクの人に助けられた。樹は沖まで流されたが運よく漁船に助けられた。 でも運命は線引きをした。 氷を買いに行っていた子、ビーチで寝ていた子、泳ぎが苦手で浮き輪を離さなかった子、そしてたくさんの観光客。 運命と言うにはあまりにもあっけなくそして残酷だった。 「なあ妙子」 「ん」 樹は沖に上がる花火を見ながら妙子と視線を合わさずに声をかけた。 「オレ実は石川と」 「聡くんとの事なら知ってるけど。順一も気づいていたわよ」 妙子も足で波をはじきながら樹を見ることなく呟いた。 「そうか。わかっていたのか」 「ふふっ。海沿いの踏切でキスって何のドラマよ。見かけたときのあの順一の顔を見せてあげたかったわ。あまりにも幸せそうで石投げようかと思ったもの」 「はははっ。暴力反対」 「ねえ、樹くん。なんで残ったの、あたし達だったのかなあ」 「80年経ったら聞くことができるんじゃないかなあ」 「え。あたし達100歳近く長生きしちゃうの?」 「きっとそうだよ。順一はまだ妙子に会いたくないと思っているんじゃないかな」 「はは。バカじゃないの?バカじゃ・・・バカだよ順一」 だんだん妙子の声が小さくなっていく。 「じゃあ樹くんも80年後に聡くんに聞くの?」 「そうだね海沿いの踏切でキスしながらかもね」 「じゃああたし達が石投げに行ってあげるわ」 「はははっ。暴力反対」 見上げると海を彩る夏の花。これからくる季節を教えてくれる夜の花。でも俺たちにとっては精霊流しの海の花。大切な人が海に帰る導きの花。

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