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第12話 閑話休題

その日の夕方、晴臣のヴィンテージショップには珍客が来ていた。 「こんばんはー」 「遥ちゃんいらっしゃ……おやまあ」 「よ。こんばんは」 遥が腕をくんで連れてきたのは、いつかの花見で一緒になった(ちか)だった。 「お久しぶりです。京さん」 「ん。遥ちゃんが面白いところがあるって言うからさ」 「こっちは晴臣さんが作ったお洋服なんですよぅ」 遥が京の腕を引く。 「へー。晴臣くん、確かに面白いことしてるね。あ、写真もある。これ遥ちゃんじゃん」 「ただ実物置いとくだけより、着用イメージあったほうが売れるかなって。遥ちゃんとか知り合いに協力してもらってます」 「モデルさん気分で楽しいんですよぅ」 「へえぇ。考えるねえ」 「服のほうより、中身の遥ちゃんに人気が出ちゃったりしてますけどね」 「あっはは。それじゃ、あの美形のお兄さんが黙ってないんじゃないの」 「そのへんは、あいつには内緒です」 「えへへ」 遥が口許を押さえて笑う。 「この後京さんとご飯いくんですけど、晴臣さんもどうですか?」 「行くよ!行く行く。後一時間半くらいしたら合流でもいいかな」 「じゃあそれまで映画でも観に行こうか、遥ちゃん」 「いいですね!僕、観たい映画があるんですよぅ。晴臣さん、都合よくなったら連絡ください」 「はいよー。いってらっしゃい」 店じまいをした晴臣が遥達と合流したのは、20時を回った頃だった。 「すみません。お待たせしましたー」 晴臣は、創作日本料理屋の一室に案内された。 ふすまを開けてまず目に飛び込んだのは京の赤髪、それから、目を輝かせて楽しそうに語る遥だった。 「晴臣さんお疲れさまですー」 「お疲れさまー」 晴臣は手前の京の隣に腰を下ろす。 「遥ちゃん何話してたの?ずいぶん楽しそうだけど」 「さっき観てきた映画の話してました!なかなか面白かったんですよぅ」 「遥ちゃん、お通しに手もつけずに喋ってるもんね」 京はどちらかというとそんな遥の様子を面白がっているようだ。 「何観てきたの?」 「あー……、晴臣さんは苦手なやつかもです」 遥が袋から映画のパンフレットをちらっとだけ見せる。 「屍人?しびと?怖いやつ?あー俺だめだわ。京さんは大丈夫なんですね」 「うーん。初めて観たけど大丈夫だったね。意外と楽しめた」 「和風ホラーを期待してたんですけど、驚かし系でしたね」 「驚かし系?」 「天井から女の死体がアップで落ちてくるとか、誰もいないのにいきなりドアを叩かれるとか」 「ひーやめてやめて」 「絶叫マシンみたいなものですよぅ」 思わず耳を塞ぐ晴臣に対して、遥はけろっとしたものである。 「遥ちゃん怖いの好きなんだ。意外だね」 「そうそう。俺も、遥ちゃんが映画観たいっていうから、てっきり恋愛ものとかかなーって勝手に思ってた」 「恋愛ものの方が良かったですか?」 遥が聞くと、 「いやあ、たぶん俺寝ちゃうから今日のやつで正解かも」 と京は苦笑いした。 「奏太も気持ち悪いって嫌がるから、いつも一人で観てるんですよぅ。でも一緒に感想言ったりできる人がいると全然違いますね。京さん、時々でもいいので、また付き合ってくださいね」 「遥ちゃんの頼みなら俺どこでも行っちゃうよー」 京はどこまでも軽い。 すっとふすまが開いたかと思うと、飲み物と食べ物が運ばれてきた。 「喋りすぎて喉乾いちゃいました。乾杯しましょー」 「乾杯」 「かんぱーい」 「銀さんと雅仁さんはお元気ですか?」 「雅はあのとおりぐーたらしてるよ。銀は……どこ行くって言ってたかな……確か西の方に行くっていったきり戻ってこないね」 「銀さんはお仕事ですか?」 「半分仕事、半分遊びかねえ。各地で男の子たぶらかしちゃ遊んでるんだから。……冗談だよ?」 「銀さんだと、本当に聞こえます」 「想像できますもん。美少年侍らせてる感じ」 あははと京が笑う。 「それはそうとあの子は?奏太くんはどうしたの?」 「それがー!聞いてくださいよー!!」 京が遥のポイントを突いて、宴が始まった。

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