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第11話 わんこ可愛い

そして翌日。 「んっ……そこはっ」 「ふふ。耐えますね。……ここは?」 「はっ」 「あは、いいじゃないですか」 「ふっ、……際どいとこばっか、攻めんなっ」 「奏太さん、楽しいので」 「おい、ちょっと、待ってくれ」 「なんですかー奏太さん。まだ始めたばっかりですよ」 コートの向こう側で縁がラケットを回しながら笑っている。 「手加減しろって言っただろ」 「これでも手加減してますよ。本当はもうちょっと打ち込みたいんですけどね」 奏太は息も荒くネットの向こう側を睨み付けた。 「これで手加減してるんなら、君は少し性格がひねくれてるな」 「ああ、それならよく言われますね」 開始直後から左右に揺さぶられっぱなしの奏太は、あっという間に息が上がってしまった。 膝に手をついて息を整える。 「いいぜ、俺もあいにく相当な負けず嫌いなんだ」 「お、ひと味違いますね。いきますよ」 縁がサーブを打ち込む。 シャワールームで、久しぶりにかいた滝のような汗を洗い流す。 「思い切りやってくれたな」 「すみません。思いの外奏太さんがついてきてくれるもので、ついむきになっちゃいました」 壁越しに会話を交わす。 「ついていけてたか?だいぶ無様な格好をさらしたが」 「そんなことないですよ。久しぶりに楽しく打たせてもらいました」 「それならいいが。……俺としては一矢くらい報いたかったな」 「じゃあ、来週の土曜もどうですか?」 嬉しそうにカーテンを押し退けて縁が顔を覗かせる。 奏太はそれを向こうに押し返しながら、 「いいだろう。受けてたつさ」 人懐こい仔犬のような縁の様子に、奏太は幾分警戒心を解いていた。好感を抱いたと言ってもいいくらいだった。 これでいいのかという疑念も少しはあったが、縁の無邪気な笑顔の前に、心の片隅に追いやられていた。 水気をタオルで拭い、着替えを身につける。 「腹減ったな」 「飯食いにいきましょう!定食屋で良ければこの近くにありますよ」 「それでいい。行こう」 「あー、ビールうまー」 縁が喉をならしていかにも美味そうにビールを飲んでいる。 実際、水分を出しきった体に染み渡るようにビールが美味い。 空きっ腹には肉味噌野菜炒め定食をかきこむ。 縁はカツカレーを食べている。 「結構美味しいでしょう?ここ」 「そうだな」 「俺、学生の頃からここ通ってるんですよ。この辺に住んでたもんで」 「そうなのか」 「変わらないものがあるっていいですよね。初心に帰れるっていうか。ま、ここは失恋の思い出とセットなんですけどね」 「ほう?」 「当時、ここでバイトしてた子を好きになって、告白したら見事にフラれたってだけの話ですけどね。奏太さんならフラれなかったんだろうなー」 「そんなことはないだろう」 食べ終った二人は店を出て、寮に戻った。

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