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第10話 案外……?

携帯の画面を消した奏太は大きくため息をついて肩を落とした。 「コンビニでも行くか……」 気分転換に、外に出ることにした。 近くのコンビニまでは歩いて5分くらいだろうか。 夜風に吹かれながらゆっくり歩き、明るい店内に入った。 ここまで来たものの、何か欲しい物があるわけでもない。 少し考えて、缶ビールとタバコとライターを買った。 再びのんびり帰ると、奏太の隣室に灯りがついている。 縁はまだ起きているようだ。 自室に戻り、缶ビールを開けた。何となく携帯でニュースサイトを眺めながら、缶を傾ける。 半分ほど残すつもりだったが、気がついたら飲みきっていた。 缶に少し水をいれ、窓を開けてバルコニーに出た。 半分くらいをクーラーの室外機で占められた狭いバルコニーだ。 自然と、隣室との境の壁に寄る形になる。 タバコを吸うのは大学ぶりだ。買ってきたタバコに火を着けると、試しに軽く吸い込んでみる。 特に咳はでない。 次は深く吸い込んで肺に煙を入れる。頭がくらくらする。 遥、縁の顔がふっと脳裏に浮かぶ。 目を閉じて煙を吐き出した。 「こんばんは」 手すりにもたれ掛かっていた腕をつつかれて、奏太は目を開けた。 縁の顔が部屋からの明かりに照らされて白く見えた。 奏太と同じく手すりにもたれてこちらを見ている。 「俺にも一本ください」 「ああ」 タバコを差し出し、縁が咥えると火をつけてやる。 旨そうに吸い込むと、夜空に紫煙を燻らせる。 ふと見ると、肩にタオルがかかっている。 「風呂上がりか?」 「ああ、いえ。筋トレが趣味なんです」 「ほう。意外だな」 「そうでしょう。いかに体型を変えずに筋肉をつけるか、試行錯誤してます。あんまり太いのは好きじゃないので」 「そうか」 「奏太さん、運動は?」 「月に数回、気まぐれにジムに行くぐらいだな。明日のテニスは正直自信がない。手加減してくれよ」 「了解です」 奏太は吸殻を缶に捨てると、もう一本火をつけた。 「やっと素で話してくれましたね。奏太さん」 「?!」 奏太ははっと我に返り、口許を押さえた。 「いえ、こっちのほうがいいです。奏太さんには何だか敬語が似合わない」 「そういうわけには……いかないでしょう」 縁がタバコを咥えたまま声を出さずに笑う。 指を一本立てて提案してきた。 「じゃあ、勤務時間外はタメ口、ということでどうでしょう」 「う、うぅん」 「代わりに俺も時間外は奏太さんと呼ばせてもらいます」 「まあ、いいか、な」 渋々奏太が頷くと、縁は右手を差し出した。 「交渉成立ということで」 「よろしく」 握り返した手のひらは、奏太より少し熱かった。 「それじゃあ、おやすみなさい」 「おやすみ」 その日はいつもより少し良く眠れたような気がした。

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