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第27話 おまけ2 観察日記<忙殺>
「あ、みずほ、魔王様戻ってきた?」
「戻ってきた戻ってきた!」
給湯室は朝から賑やかである。
山根円と原みずほはお茶をいれながらきゃいきゃいとしている。
「今日もまた一段と美しかったよー」
「出張続きで疲れないのかね」
「ほんとだよね」
「私なんかさ、飲み会続いただけで肌荒れるよ?」
「超荒れるー」
ここで魔王様と呼ばれているのは香住奏太だ。
奏太の同期の円と、奏太の部下のみずほ、それから新人の真由美は憧れ半分、冷やかし半分に奏太を観察しては報告しあっているのである。
「どうせ見るなら綺麗なもの見ていたいじゃない?」とは円の言である。
コツコツと足音がしたかと思うと、当の本人が現れた。
「あれ、山根か。楢崎さん知らないか?」
「おはよー香住くん。真由美ならトイレにいたけど」
「ああ、おはよう。…悪いんだけど、戻ってきたら、第二会議室にコーヒー3つって伝言頼んでもいいかな?」
「いいよー」
「それから山根、愛媛支部に俺の弟のこと教えたろ」
「あー、遠山さんね。教えたよー。だって聞かれたんだもん。何かまずかった?」
「…いや、いいんだ。ちょっと、な」
それだけ言い置いて、奏太は去っていった。
「なになに円、姫のこと聞かれたの?」
「そー。あ、遠山さんて大学の先輩なんだけど、香住さんには弟さんいますか?って聞くからさ、超可愛いのがいるよって教えてあげたの」
「姫可愛かったもんねー。どんな親だったらあんな美形兄弟が生まれるんだろね」
姫と呼ばれているのは当然遥だ。
社内パーティーに顔を出したことがあったため、円達にもその存在を知られている。
「おはようございますー」
楢崎真由美が顔を出す。今年の新人で、奏太に心酔している。
「おはよー真由美。えーと、第二会議室にコーヒー3つだって。魔王様からのご指名だよー」
「早急に淹れます!」
「いやいや、始業後で大丈夫だから」
「あ、そうですよね」
午前中。
会議室から戻ってきた奏太は自席で仕事をしている。
みずほと真由美はこそこそとメールでやり取りしていた。
『みずほ先輩、魔王様、ご機嫌悪くないですか?』
『悪い悪い。だって色気増してるもん』
『どうしたらあんな色気出るんですかねー』
『私ら凡人には無理だって』
『機嫌悪くても優しいから、むしろずっと怒っててほしいです』
『あはは。そういえば今日、真由美面談の日?』
『そうなんですー!メイクちょっと丁寧にしてきました。魔王様と二人きりですもん』
新入社員は、月に一度上司との面談がある。真由美はその日を毎月楽しみにしている。
『楽しんでおいでよー』
「原くん」
つかつかと奏太が歩いてくる。
「はい。なんでしょう」
「前に作ってもらったこの資料、データを最新化して、この表追加したバージョンを新しく作ってもらえるかな。会議で使いたいんだ」
「はい」
「午前中にできる?」
「大丈夫です」
「じゃあ、追加データはメールで送る。よろしくね」
「あと、楢崎くん」
「はい!」
振り返った真由美の目がきらきらしている。
「申し訳ないんだが、今日の面談を明後日にリスケしてもらえるかな」
「は、はい」
「準備してもらったのにごめんね」
「いえ、大丈夫です」
言うなり奏太は急いで自席に戻っていった。
『魔王様忙しそうですね…』
『また部長に無茶振りされたんじゃない?可哀想だよね』
『今日の面談がぁ…』
『明後日は大丈夫だって!元気だしなよ』
『そうですよね。直接喋れたし良いことにします。ふふ、魔王様良い匂いしました(はあと』
『真由美みたいに幸せそうな新人初めてかも』
『ところで、なんで魔王様は部長に嫌われてるんですか?』
『うちの会社的に、二十代で課長って時点で異例なのよ。それがなんで実現したのかって言うと、もちろん能力もあるけど、専務に気に入られたからってのが大きいわけ』
『はあ』
『部長は専務の覚えがめでたくないからねー。そのうち魔王様が部長追い越すんじゃないかって思ってるんじゃない?』
『えー、じゃあ部長の八つ当たりじゃないですか!魔王様かわいそー』
『うんうん。だから、仕事頑張ってあげて。魔王様のためにも』
『はい!』
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