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第1話
僕は何のために生きているんだろう
「おいっ!寝てんじゃねぇよ。なめてんのか?」
朝起きると体調が悪くふらりとした体が布団に倒れ、立てずにいるとすぐに兄さんの罵声と蹴りが降ってきた。
ご飯を作るのはいつも僕の仕事だから…
「ったく、グズグズしてんなよ。そんなんだから親に捨てられちまうんだろ」
この人は僕の兄だけど本当の兄ではない。
僕は親に捨てられたところを今のお父さんに拾われたんだ。
八年前
「あんたさえいなければっ!」
「っいた、い!やめて!」
ドカドカと蹴られ殴られ…
そんな生活がもう何年も続いていた。
『お母さん』と呼ぶと余計に怒らせてしまうから呼ばないように気を付けて、怒らせないように、怒らせないように生きてきた。
物心ついた時からこの生活は変わらず、家でお父さんの姿を見たことは一度もなかった。
いつか殺されてしまうんじゃないか…
そんな恐怖が頭の中をグルグル回っていて、誰に相談することもできず幼いながら
このまま誰にも知られず死んでしまうのだろうと思っていた。
死にたくない、でもどこかで死んで楽になりたいと思っていた。
その生活が変わったのは僕の七回目の誕生日のこと。
「お誕生日おめでとう!」
朝起きるといつもと様子が違った。
いつも鬼の形相で怒っている彼女が見たこともないような笑顔で僕の誕生日を祝っていた。
信じられなかったけどこの日は本当に機嫌がよく、ご飯を作ってくれた、たくさん話しかけてくれた。
「今日は特別な日だから私の大好きな場所に連れて行ってあげるね!」
「え!本当?!」
うれしかった
一緒に出掛けることなんて今までなかったから。
車に乗ること数時間。
車の中でも彼女の機嫌はよく、歌を歌って楽しそうだった。
着いて目にすぐ入ってきたのは見たことのないくらい高い建物、ピカピカ光る壁。
山の奥にあった僕の家のとは別世界のようだった。
きらきらと光る街に、ここに連れてきてくれた彼女の笑顔。
きっとここから僕の生活は始まるんだと、そう思っていた。
日が落ち、あたりが暗くなってきたころ
「ねぇ、ちょっとトイレ行ってきてもいいかな?」
「うん!」
「ここで待っててね」
そういうと急ぎ足でその場を離れて行った彼女がそのまま帰ってくることはなかった。
迷子になったのかな?とも思ったけど、ここは比較的人通りの少ないところ。
迷うことはあれどたどり着けないことはない。
あぁ、捨てられたんだ…
思ってしまえば何となく心は楽になった。
悲しいとも何も考えられなかった。
汚い路地裏で一人蹲っていると一人の男の人が話しかけてきた
「君、どうしたの?家出してきたの?」
「…」
何も答えなかった
踏み込まれてしまうのが怖かったから。
「どこから来たかわかる?」
「…」
どんなに僕が無視してもその人はずっと話しかけてきた。
色々な質問をされて僕が答えたのは一つだけだった。
「とりあえず、うちに来ようか」
このままのたれ死んでもいいと思っていたのに、手を差し伸べられてしまうとそれにすがりたくなってしまう。
気づけば僕はその人の後をついていった。
家に着くと一人の男の子が出てきた。
「これがうちの息子な」
「…こいつ誰?」
「そんなむすっとしてんなよ~照れてんのか?」
「そんなんじゃねぇし」
「今日から二人は兄弟だ!んで俺は二人のお父さんな!」
父だと言った人は明るく太陽のような人だった。
兄だと言われた人は冷たく怖い人だった。
父が言うには兄は反抗期らしい。
中学校に上がったばかりなんだそうだ。
そこから話は僕の知らない間にとんとん拍子で進んでいった。
時間はかかったけど養子縁組というものを組んでくれて、僕は本当にこの家族の一員になったのだ。
色々な手続きが終わり三人で楽しく過ごせるのかと思ったら、そうはいかなかった。
父は元々海外で仕事をしていたらしく、戻らなくてはならないということを聞いた。
父子家庭のため、必然と僕は兄と二人きりの生活になる。
根はいいやつだから!そういった父の言葉を真に受け、簡単に人を信じてしまった僕が悪い
兄との生活は、まるで前の家にいたころと変わらなかった。
違うところといえば兄は僕に自分の分の料理を作らせる。
僕の母だった人は、僕をいないものとしていたけど
兄は僕のことを奴隷のように思っているのだろう。
そんな生活は八年たった今でも変わらず、冒頭に至る。
僕は高校生になり、兄は二十歳の大学生になった。
まだ入学して間もないが、クラスの雰囲気になれず友達の一人もできない僕は今もなお一人でじっと兄からの暴力に耐え忍んでいる。
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