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第5話
「お、親父」
こんな朝早くから誰かと思ったら、今海外で仕事をしているはずの俺の父親だった。
「なんで家に…?」
「お前、馬鹿野郎が!大事な息子が入院したって聞いたら飛んで帰ってくるに決まってんだろ!」
温厚で滅多に怒らない父親が帰宅して開口一番に怒鳴ることなんて初めてで驚き、固まってしまった。
「お前が付いていながら栄養失調だなんてどういうことだ!それに過度のストレスなんて何があったんだ!学校でいじめられでもしてたのか?!」
「え、や、その…何ていうか」
父親に怒られたくない、軽蔑されたくないという気持ちが勝ってしまいつい誤魔化した。
そして父親もそれ以上追及することはなかった。
俺には家に残っているように命じ、自分は病院に急いだようだ。
また家に一人になってしまい、自責の念が心を支配する。
なんといって謝ったらいいのだろう。
それ以前になんと話しかければいいのだろうか。
早く弟に会いたいと思う反面、会うのが怖いとも思っていた。
あっという間に日は暮れ、病院の面会時間も終わったころだろうし、そろそろ父親が帰ってくる。
そう思ったらすぐに玄関の開く音がして父親が帰ってきたことを知らせる。
「ちょっと話がある」
「何?」
ただいまも言わず、昨日のようにいきなり怒鳴るわけでもなく、静かに俺を呼んだ。
「あの子から、全部聞いた…」
「っ、何を?」
わかってる、たぶんあの事なんだろう。
分かってはいるけど心臓が掴まれたように痛い。
心臓の音が響いて聞こえてくる。
「今日、目が覚めて全部話してくれたよ。聞いているこっちまで辛くなって、話させるのも可哀想で何度も途中で止めようとしたよ」
…っ、やっぱり俺のせいなのか。
父親に知られてしまった。
俺がそれを隠そうとしたことも知られてしまった。
「お前はもうこの家から出ていけ。二十歳になるんだからもう自立してもいいくらいだろう」
「っな、出ていくって、俺まだ大学生なんだけど?!」
「大学の授業料だけは払ってやる、だからもう出ていけ。」
「じゃあ、あいつはどうすんだよ!親父はまた海外に行くんだろ?一人にするのか?」
「このことは俺にも責任がある。だから今後あの子が生きやすいように取り計らうつもりだ」
最後に俺はもう弟に会うことができないということを言われ、家を追い出された。
それを弟が望んだということなのだろう。
謝れば許されると勝手に思っていた自分の幼稚さに呆れる。
血のつながっていない弟に恋をした。
それだけでも世間から見ておかしいことなのに、さらに暴力をふるった、無理やり犯した。
もう二度と会えないまでのことをしてしまったのだ。
家を追い出された俺は今日の宿を探すべく一人でひたすら歩いた…。
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「本当に申し訳ないことをしてしまったなぁ…」
家に一人残った父親は涙ぐみながら少年と初めて会った時のことを思い出していた。
「どこから来たかわかる?」
「……。」
「お父さんとお母さんは?」
「……。」
だめだ、何を聞いても反応してくれない…。
このまま家に連れて帰ったら、下手をすると誘拐だよなぁ…
「あ、そうだ。名前は?お名前何て言うの?」
「……。」
「……」
「……まなと」
「そっか、まなとくんか。どんな漢字を書くのかな?」
そう漏らすと地面に指で書いてくれた。
「『愛人 』いい名前だね。」
そういっても目の前の少年は反応してくれないけれど、俺は話をつづけた。
「きっとこれからの人生、君のことを愛してくれる人が絶対出てくるよ。だから君は名前のように愛される人になりなさい。そのための一歩をおじさんが手伝ってあげるから、うちで一緒に暮らさないか?」
この言葉があの子にどれだけ届いたかはわからない。
もしかするともう忘れてしまったかもしれない。
あの子が幸せになるための一歩を踏み出させてやろうとしたのに、それどころか返って逆戻りさせてしまった。
この償いは一生かけてするから、どうか二人の息子が幸せになれますように…。
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