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おやすみ

 バラバラになっていたパズルが、どんどん出来上がっていく。  それは、完成させてはいけない。  じゃないと、この平穏な生活が、何もかも、崩れ散ってしまうから。  こうやってヤスと話すこともなくなるかも知れないなんて、俺は嫌だ。  両親にずっと負い目を感じて生活するのも、耐え難い。  パズルのピースを探すのは、家族のために、自分のためにも、やめたほうがいい。 「……ヤス、時間、大丈夫なのか?」 「うわ、忘れてた。ごめん兄貴、俺行くわ」 「うん」  思い出したみたいに、弟は慌てて鞄を引っ掴んで、バタバタと忙しない足音を立てながらリビングを出ていく。 ──ばたんっ、と玄関の扉が閉まった音が聞こえてから、俺はテーブルの上で頭を抱えた。 「……くそっ、」  顔が見えないようにとされていた目隠しが、仇となってるよ、ヤス。  もう何回、あんなことをしたと思ってんだ。  頭で理解しようとするより先に、身体は覚えていた。  熱くなった顔を、頭を抱えて腕の中に閉じ込める。  誰も見てないけど、それでも。  本当は、心のどこかで分かっていたんだ。  ただ俺が、気付かないふりをしていたかった、事実を知るのが怖かっただけの話。  それに、“夜のアイツ”は、暗示のように俺に言う。 『これは悪い夢だよ』と。  まるで呪いをかけるように。  何度も、囁き、祈りのように、含み込ませるようにして。  その言葉を、もう少しだけ、信じさせてくれないか。 ……悪夢でもいい。  俺は、騙されていたい。 (あの夢を、見ていたい。) end. 120120/191020 Кошмар→悪夢 сон→夢

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