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夢の記憶はいつも、鮮明に残っている。
シャンプーの匂いも、重ねた身体の温度も、息遣いも、あの痛みと狂いそうな快楽だって、今でも思い出せるくらいに。
でも俺は、やつが部屋から出て行くところは、今まで見たことがない。
毎回毎回、事が済むと、気絶するように眠ってしまうからだ。
だからそのせいで、いつも夢だと思っていた。
いや、夢だ。夢なのだ。
そうじゃなきゃ、これって。こんなことって。
「熱、測った?」
「……え、まっ、まだ、……っ!」
俯いていたから、知らなかった。
いつの間にか目の前にいた弟が、突然、俺の額に触れる。
冷たい指先、低い温度の手のひら。
夢のことが、脳裏にフラッシュバックする。
「顔も熱いな……、悪寒とかする?」
……ぞくぞく、する。
これは、悪寒なのか? ただ熱があるだけ?
頭がぼうっとして、思考回路が鈍くなる。
だめだ、こんな状態じゃ。
混乱して、ちゃんと頭が働かない。
もう一度、冷静に考えないと。
「……俺、今日やっぱ休むから」
さりげなく弟の手を払う。
今だけは、触らないで欲しい。
ぞわぞわして、それが何なのかも分からなくて、頭がおかしくなりそうだ。
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