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弟の、あんな色気のある低い声なんて、知らないはず、なのに。  それを耳許で囁かれたこともないのに、ピタリと、パズルのピースが合ったかのように、一致する。 「……っ」  頭のなかが真っ白になった。どういうことだ。  俺は、血の繋がった弟とする夢を、見ていたのか?  だけどそれも、引っ掛かった。  じゃあ、なんで。  なんであいつは、あの台詞を、俺に言った……?  情けないことに、指先が震える。  俺は、気付かなくていいことに、気付いてしまった。  どうして、なんで、今さら。  動揺を隠せなくて固まっていると、リビングの扉がガチャリと開く。  そんなに大きな音でもないのに、びくっ、と大袈裟なくらい身体が飛び跳ねた。  おそるおそる入り口に顔を向けると、制服に着替えたヤスの姿。  見慣れたどころか、今まで一緒に育ってきたはずの、実の弟。  なのに心臓はバクバクと鳴って、平静で居られない。 「……兄貴、なんか顔真っ赤だけど、まじで大丈夫?」 「……大丈夫じゃ、ないかも」  そう答えるので精一杯。ちゃんと顔を見れない。  だめだ、気付かれたら。怪しまれたら。  だって、違うかも知れない。俺の、勘違いかも知れない。 ……勘違いで、あって欲しい。

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