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第1話

「あ……っ……あ!」  綾(りょう)は律(りつ)のシャツの胸元をぐしゃりと握りしめ、身体をきしませながら喘いだ。 「……綾」  律の腰に馬乗りに跨り浅く深く抽挿を繰り返す。身体の奥の律は熱く滾っている。それを締め付けるように何度も腰を落とすとその度に律が低く呻く。ダメだ、と言って差し出された手を遮って喉を締め上げる。 「黙って。おとなしくしてるんだよ」 「綾」  二人の苦しげな呼吸が密室の中に広がる。淀んだ空気を振り払うように綾はまた腰を蠢かせた。自分のはだけたシャツをぐっと引き上げ律動を早める。 「綾、ダメだ」 「黙れ」  眼鏡がずれてシーツへと音もなく落ちた。律の限界が迫っているのを知ってなりふり構わず身体を揺らす。律はシーツを絞り上げながら目を瞑った。 「綾、もう……」 「イケよ。僕の中に出せよ」  眉根がきつく寄せられ、その瞬間、綾の中が熱い体液で満たされていく。それを受け止めながら綾も僅かに遅れて達した。 「……綾」  すべて受け止めた後、綾は黙って律の上から退いた。律の視線が綾の白い内股に引き寄せられる。膝をついて立った腿に律が撒いた欲望の残滓が伝っている。存分にその姿を見せつけてから綾はベッドを下りた。左の足首に痛みが走ってよろける。慌てて律が起き上がった。 「綾、大丈夫か」 「触るな」  シャツ一枚の姿で部屋を後にする。向かうのは隣りの自分の部屋だ。  律は決して刃向わない。いつも従順に綾のしたいようにさせる。それにイライラして、部屋に入った途端、足元のゴミ箱を蹴とばした。胸の鼓動が治まらない。弟とセックスした後はいつもこうだ。  腿へと手を伸ばし、まだ生暖かい精液を掬う。その指を舌でなぞってみて綾はベッドに倒れ込んだ。拒否されないことにまた安堵の念も抱いて。 「律……」  顔を両手で覆って綾は泣く。夕暮れの紅(くれない)に満たされた部屋の中で綾はひっそりと涙を流した。

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