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第2話

「おはよう! 綾!」 「……おはよう」  友人の前田に声を掛けられ、綾は鞄を机に置いた。席に着くと前田が興味津々という顔で覗き込んでくる。 「弟くん、モテるねぇ。昨日隣りの組のあのミナちゃんに告白されたんだってぇ?」 あのミナちゃん、とは学年一の美人と言われる隣りの組の委員長だ。律が属するバスケット部のマネージャーをしている。以前から二人は似合いだと噂になっていた。綾は眼鏡をくいと鼻の上に押し上げる。 「……ちょっ!」 「おまえも眼鏡外しちゃえよ! 知ってるんだろ? 自分が弟くんと同じくらいモテるってこと!」 「そんなことない。眼鏡、返せよ」 「もったいないよな。学年一を争うイケメンの両方に彼女がいないなんて」  ほう、と息を吐き、前田は悔しげにでこピンをしてくる。綾は前髪を整え、眼鏡を要求する。 「でもさ! こんなに似てない双子ってのもなぁ」 「二卵性だからな。違って当たり前だろ」  友人と話をしている律を見つめる。百九十に近い弟とは十五センチも身長が違う。それに伴い体重だってそうだ。律は明朗快活で綾は品行方正。友達の数だって違う。成績は綾の方が上だが、律はしっかり後を付いてくる。バスケ部のエースと帰宅部の引きこもり。すべてが違う二人の唯一の共通点は艶のある濡れたようなしなやかな黒髪だけ。襟足をつまんでいるとふいにこちらを見た律と目が合う。つんと視線を逸らし、前田から眼鏡を取り上げた。 「なぁ、おまえらって仲いいの?」  仲がいい。その言葉に綾はひんやりとした笑みを漏らした。血の繋がりを無視した許されない罪を続けている。弟と寝ているんだよ、そう言ったらこの呑気な目の前の友人はどんな顔をするだろうか。困惑? 嫌悪? どちらにせよ面白いことになるだろう。だがこの秘密は自分だけのものにしておきたい。それは律を一人占めできているという小さな快感。 「どうだろうね」  綾は眼鏡を掛けると教科書を開いた。こちらに向けられた律の視線を感じたまま。

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