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第1話

「あーあ、言っちゃった」 「イっちゃっただあ?」  ジェイクは片眉を上げ、声の主を振り返る。 「言っちゃったから仕方ない。だって君が言っちゃったからねえ」  サムはオーバーに肩を落とす。彼からはあ、と溜息が溢れたが、それは俺のセリフだろうとジェイクは思った。二人きりとはいえトイレでする話ではない。  渋面を浮かべるジェイクのことなどつゆ知らず、サムは続けた。 「僕は行かないでって言ったのに、Jがあんなこと言うからいけないんだ」 「俺が何か言いました? 勝手にイったのはあんたの方でしょうが」 「離さないでって僕に言った」 「今は話すなってことさ。それくらい察しろよ」 「僕、何か君の気に障るようなことをしたのかい?」  サムはジェイクの肩に指を滑らす。女に触れるような妖しい手つきだが、ジェイクは髭面の厳つい顔立ちであり、どちらかというと彼の上司であるサムのほうが女顔の美貌を持っている。  サムは絹のようなブロンドを嫌味なほどに綺麗にオールバックに整え、伏し目がちのブルーグレーでジェイクを見上げる。細身で自分よりも少しだけ背の低い男だが、彼の肩書以上に威圧的な態度は、ジェイクが彼を嫌味なやつだと認識させるには充分だ。  セクハラ――だけではなくパワハラの部類になるのだろうが、サムは事あるごとに過剰なまでのスキンシップをジェイクに求めた。

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