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第5話
「いいですか? 酒に酔ったとはいえ、今後は俺の家に転がりこむようなバカな真似はしないでください。仮にもあなたは俺の上司でしょうが」
「じゃあシラフならいいのかい? そうだ、さっきの勝負。君にボトルをプレゼントしよう。ふたりで乾杯しようじゃないか」
「俺の話聞いてました?」
「君こそ僕の話を聞かないよね。上司命令だって言ってるでしょう」
「……あんたが飛ばされてきた理由が痛いほどわかるよ」
「赴任だ」
「左遷」
「赴任だ!」
一瞬声を荒げた後、サムはネクタイを締め直し、汗ばんだ額を拭いながら言った。
「例の殺人鬼は行方知れずだろう? ここにはあの軍用犬もいるから、手綱を握る完璧な人間が必要なんだ。この僕みたいな」
「まあ、あなたがそう思うなら、俺みたいな下っ端が言うことありませんが」
仕事ができないやつほどプライドが高い。顔色を伺いながら付き合うことにうんざりするが、これも対人スキルを上げるための手段だと、ジェイクは自分を納得させた。
「そ、そうだジェイク! ランチは済ませたかい? まだなら二ブロック先に新しいバーガーショップができたんだ。ご馳走するよ。一緒にどうだい? そうだ。ドーナツも奢るよ。いつものストロベリードーナツ!」
「そこまで言われたら、まあ、いいですよ。付き合ってあげますよ」
「恋人として?」
「ランチにです」
「わかっていたさ。君が僕になびかないことくらい。でも恋の駆け引きを楽しむくらいは許してくれよ」
ヒラヒラと手を振りながら彼の上司は出て行った。結局サムが手を洗うことはなかった。
「あのクソ野郎……」
ジェイクは元来の渋面をさらに強めた。くっきりと刻まれた眉間の皺は、きっとサムが奢る甘ったるいストロベリードーナツが消し去ってしまうだろう。
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