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第1話

「…と言う訳で、今日から暫くの間この寮に世話になる事になった。今いないヤツにも伝えておいてくれ。以上、解散」 ある日の夜、月城医大社員寮の多目的室で寮生を集めそう話をしたのは、月城医大の外科部長・明紫波光秀だった。 「え?どういう事だ?」 「だから、帰宅困難になった時の為に前以て寮生活を体験しとこうって事だろ?部長、マンションに独り暮らしらしいし」 「ああ、今、台風やら地震やら、自然災害で何があるか分かんねえもんな」 「だからって、あの部長様だぜ?病院外でまで顔合わせるとか、冗談だろ~」 「……え。…俺は構わないけど…」 「…は?」 等々、寮生がざわつきつつ各自の部屋に戻って行く中、光秀が慶次を呼び止める。 「前木、ちょっといいか」 「あ、明紫波さん。急に寮に住むって言うから驚きましたよ」 「まあ少しの間だがな。ところで石黒なんだが…」 「え?みっちゃんですか?ああ今日は研究室に泊まり込みみたいですね。俺から明紫波さんの事伝えておきますよ」 「いや、俺から話すからいい」 「え?でも明紫波さん、忙しいですよね?俺が…」 「いや石黒に用があるから、ついでに俺から話しておく。前木は話さなくていいからな」 そう念を押すように言うと光秀は慶次に背を向け、さっさと自室へと戻って行った。 「むう~~~っ」 光秀の後ろ姿を見送りながら慶次がむくれていると、側にいた政宗と幸村が話かけてきた。 「まあ、三成に用事があるって言うのだから光秀に任せておけばいいではないか」 「だって、俺がみっちゃんに言いたかった」 「…子供かヨ。前木は浅日にでも教えてやれば?」 「む、そうだな。長政は当直でいないのだろう?慶次から長政に伝えるがいい」 「……長政にも言うけどさぁ」 と、尚もブツブツ言う慶次。 政宗達はそんな慶次に苦笑しながらも宥め、自室へと戻って行ったのだった。 翌日の朝――。 寮の玄関で光秀は秀吉と真琴にハチ合わせる。 「おはようございます~。って何で明紫波センセがおるん?」 「ん?…なんでだ?」 キョトンとする秀吉と無表情ながらも驚いた風の声を出す真琴。 呆れた光秀がため息をつく。 「昨日の夜、説明しただろうが。まさか聞いてなかったのか?」 「説明っていつ何処でしてたん?俺らずっと部屋におったで?なあ真琴」 「ああ」 「…寮内放送して多目的室に集まるように言った。それすら聞いてねえのか?」 「寮内放送?…そんなんあった?」 「…………あ、…あったな」 「え?なんで言わへんの」 「いや、秀吉の可愛い声でよく聞こえなかったし、俺もそれどころじゃなかったからな」 「…なっ!?」 ぶわっと赤面する秀吉を余所に、昨夜の事を思い出したのか意地の悪い笑みを浮かべる真琴。 「あ、あはは。徳川センセってば何を言ってますのやろ。ほ、ほな俺らお先に行かせてもらいます~」 秀吉は慌てて真琴の腕を引くと、そそくさと玄関の扉を抜けて出て行ってしまった。 「…アイツら。これは寮内風紀検査が必要か?」 と、ひとりゴチると光秀もまた職場である月城医大へと向かったのだった。 その日の夜――。 退勤時間はとうに過ぎていた。スタッフも夜間勤務の者達に入れ替わり人影もまばらだ。 光秀は三成のいる研究室へと向かう。 その顔には悪戯っ子のような笑みが浮かんでいた。 研究室に着くとその笑みをしまい、中にいる三成に声をかけた。 「おう石黒。どうだ、終わりそうか?」 「…明紫波ですか。そうですね…。終わると言えば終わるような。…終わらないと言えば終わらないような…、と言う感じでしょうか…」 振り返った三成の姿はヒドかった。髪はボサボサ、白衣はヨレヨレ、目は座ったままで光秀を見た。 「おまっ、どんだけ寝てねえんだ?目の下クマ出来てるしフラフラじゃねえかよ」 「…さあ?一昨日の前は寝たと思いますけど…」 「…俺が目を離すとすぐこれだ…。おら今日はもう帰んぞ。部屋まで送るから支度しろ」 「…はあ」 ノロノロと帰り支度をする三成をせっつき、光秀は三成を引っ張り研究室を出て行った。 途中コンビニで夜食を購入し、寮へと帰って来た二人。 階段を上がり、いくつかの部屋の前を通りすぎると三成の部屋の前に着く。 「おら着いたぞ。鍵はどこだ?」 「…ここですけど。本当に部屋まで送ってくれるなんて…。今日の貴方は送りヒツジさんですか?」 三成の眼鏡の奥の目があやしく光る。 「バカ言ってんじゃねえよ。テメーは今日はもう大人しく寝ろっ。で、何かあったら俺を呼べ」 そう言うと光秀はその先に歩み、隣の部屋の前に立つと扉に寄りかかった。 「俺の部屋は、ここだからよ」 部屋の鍵を取り出し顔の横でプラプラさせる光秀。呆気に取られる三成の顔を見てニヤリと笑ったのだった。

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