2 / 3

第2話

「どういう事か説明して貰ってもいいですか?」 「……その前に、俺の上からどけっ」 三成の隣の部屋の前で、してやったり顔でニヤついていた光秀。 そんな光秀に無言で近付いた三成は、光秀の腕を掴み自分の部屋へと引きずり込むと、そのまま押し倒していた。 「いやです。貴方からのお誘いがあったので、据え膳はきっちり頂きます」 「いつ誘ったよ!誘ってねえし、据え膳でもねえ!いいから、どけっ」 光秀は三成の頭を叩き、何とかもがいて三成の身体の下から抜け出る。 光秀に逃げられた三成は、その場に力尽きたようにうつ伏せていた。 そんな三成のお腹が『ぐ~…』と鳴る。 「……」 「……とりあえず、飯食え。説明はその時だ」 そう言って光秀は、三成の体を起こし机の前に座らせると、買ってきたコンビニ飯を机の上に広げた。 イカの焙り焼きを肴にビールを飲む光秀。弁当はあらかた食べ終わっていた。 同じくビールを飲み、光秀の説明を自分なりに解釈した三成が喋る。 「…はあ、自然災害ですか。それで帰宅困難になったとしても貴方なら病院に泊まればいいのでは?そういう事関係なしにいつも泊まり込んでいるのですし。それをしないで寮に住む?それは俺に襲ってくれと言っているようなものですね」 「…なんでそうなる」 三成の結論に脱力する光秀。 「だってそうでしょう?わざわざ寮で、しかも隣の部屋ですよ。朝、昼、晩と貴方を顔を見たらゲージが貯まるというものです。もういっその事、同じ部屋でも良かったのではないですか?」 目元を赤くした三成がテンション高めに力説する。 「隣の部屋はたまたまだ。昼は病院にいるんだし顔を合わせたって問題ねえ。大体この寮は一人部屋しかねえだろ、二人でなんて住めるか」 それにいちいち返事を返す光秀。三成の言葉に呆れつつも楽しそうだ。 「…と、もうこんな時間か。テメーの馬鹿話に付き合ってると時間が早えぜ」 時計を見た光秀がそう言って立ち上がろうとすると、三成が引き止めるように光秀の腕を掴む。 「どこへ行くのですか?」 「…自分の部屋へ戻んだよ」 「ダメです」 「ダメってお前な…。明日も早えんだよ」 「俺が起こしてあげます」 「じゃあ、7時に俺の部屋に起こしに来てくれ」 「ダメです」 「…テメェ、起こすって言ったじゃねえか」 「起こしますよ。この部屋で俺に抱かれた貴方をね」 と、にやっと笑った三成が、一瞬返答に困った光秀の腕を引き、自分の腕の中にその身体を抱き止める。 文句を言おうとした光秀の口を唇で塞ぐと、抵抗が無くなるまでその咥内を貪った。 「…………この、ヤロウ」 力の抜けた光秀が、顔を真っ赤にして睨んでくる。 「ふふ。いいですね、その顔。あ、お風呂に入りましょうか。頭も体も全て洗ってあげますよ」 と、楽しそうに笑った三成は光秀を姫抱きにすると、お風呂場へと運んだのだった。 翌朝――。 「みっちゃん、いる?朝だよ~」 と、三成の部屋の扉をノックしながら慶次が声をかける。 「みっちゃん、起きてる?おはよう。仕事に行こうよ~」 と、更にノックしようとした所で、急に扉が開いた。 「…石黒なら、今、シャワーだ。…前木、いつも石黒を起こしに来てんのか?」 顔を出したのが部屋の主ではなく光秀で、目を見開いて驚く慶次。 「えっ、えっ?…明紫波さん?なんでみっちゃんの部屋に…。あ、起こすのは、いつもって訳じゃないですけど、みっちゃんがいる時はだいたい、です…」 光秀と慶次、お互いが怪訝そうに相手の顔を見つめる。 「…そうか。じゃあ今後は来なくていいぜ。…俺がいるからな」 光秀は辛うじて強気の笑みを浮かべると、慶次の目の前で扉を閉じた。 扉を閉じられた方の慶次は唖然としている。 その様子を見てしまった政宗と幸村が困ったように笑い慶次に声をかけると出勤を促した。 「…光秀がいるのは少しの間だ。また慶次の出番も来るだろう。さ、一緒に病院に行こう」 「政宗~~~っ」 慶次が政宗と共に階段を下りていく。その後をついていた幸村が後ろを振り返えると、光秀が顔を出していた扉を意味ありげに見つめた。 数日後の夜――。 光秀の部屋の扉をノックする音がする。扉を開けてみると、幸村が立っていた。 「よう。遊びに来てやったゼ」 「…別に、頼んでねえよ」 光秀が迷惑そうな顔をするも、幸村は構わず部屋に上がり込む。そしてぐるりと部屋の中を見回した。 「ふ~ん。…で、どうヨ?寮生活には慣れたのかヨ?」 「…まあまあ、だな」 幸村の問いに、何となく落ち着きのない光秀が答える。 幸村は手頃なイスに腰かけるが、光秀はそんな幸村から少し離れた位置に立ったままだ。 「…座んねえの?」 「…あ?ああ、…タバコ吸うからな」 言うと光秀はキッチンへ向かい、タバコに火を付けた。 「……」 「……」 「…今日は石黒は?」 「…あ?石黒なら、今日中に仕上げなけりゃならねえ論文があるって、研究室に泊まりだ」 「…へえ」 幸村が立ち上がり、光秀に近付く。 タバコの火を消した所だった光秀は、幸村の接近にギクッとし身を引こうとするが、換気扇の下だった為、それ以上の逃げ場がなかった。 幸村の手が光秀に伸びる。 ビクッと体を震わせる光秀。 「…ふ、くくくっ」 「…な、なんだよ」 突然、噴き出す幸村に、落ち着きを戻した光秀が憮然とする。 「そんな警戒すんなヨ。逆にヤル気が失せる」 「…テメーが、ただならぬ空気を出すからだろう。いつものダルそうな真葉クンはどうした」 「お望みなら、いつでも襲ってやるヨ?」 「止めろ!望んでねえ!」 いつもの病院の屋上での雰囲気になり、ほっとする光秀に、内心、複雑な気分になった幸村だった。

ともだちにシェアしよう!