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番外.夜の蛇
☆2月14日 0時40分
他の剣道部員が眠るのを待って、二人は道場を抜け出した。
雑魚寝しているみんなを起こさないように、そっと足音を潜める。
「こんな所に呼び出して、どうしたんだ? 世流」
二人が忍んで来たのは、道場の裏手の林の中。
「決まってるだろ?」
穏やかな口調で言った世流は、素早く徹の手を引き、ギュッと腕の中に閉じ込めた。
「世流? ん……」
怪訝な顔で見上げてくる徹に、世流はしっとりとしたキスを落とす。
初めは触れるだけだったが、徹が息継ぎのために開けた口に舌を差し込んだ。
チュク……チュプ……
最初は抵抗していた徹の舌が、次第に絡み付き、世流の舌に応えようと動く。
こうなった徹は、世流の背中に手を伸ばし、もっととねだるように抱き締めてくる。
互いに舌を絡め合い、混ぜ合わせた唾液が、徹の口端から零れて顎に伝った。
「んっふぅ……ま、待てよ、世流……他のヤツらが来たら……」
キスに夢中になってたくせに、まだ理性を捨てきれない徹に、世流は軽く溜め息をついた。
そして意地悪を思い付いたようにニヤリと笑う。
「もし誰か来たら、見せ付けてやれば良いだろ」
「なっ!? 何言ってんだよ、バカ……!!」
一気に顔を赤くした徹が、慌てて世流の腕から逃げようとする。
けれど世流が、そんな事を許すハズが無い。
より強く抱き締め、徹の耳を甘噛みする。
「んぁ……や、やめろってば……!」
寝間着代わりのジャージ越しに伝わる徹の熱が、どんどん上がっていく。
「大声出すと、本当に誰か来るぞ?」
「なっ……っ!」
ハッとした徹が、とっさに両手で自分の口を塞ぐ。
世流は徹の耳元でクスクスと笑った。
「心配するな。おそらく部長が、他の部員を止めてくれてるだろ」
部長が起きていた事に気付いていた世流が、そう断言する。
実際、道場で寝ていた部員達は、徹と世流がいない事を不思議に思っていたが――
「なぁ、探しに行った方が良いんじゃないか?」
「やめとけ。怪我じゃ済まないかも知れないぞ」
一人だけ徹と世流の関係を知っている部長は、深く溜め息をついた。
「『触らぬ神野に祟り無し』だ。まったく」
一人で愚痴った部長は、他の部員が道場を出ないように、ずっと目を凝らしていた。
「……それはそれで、申し訳ない気がする」
一応抵抗をやめた徹は、眉根を寄せボソリと呟く。
「まぁ、利用できるものは何でも利用してやれ」
世流の言葉に、徹は軽く溜め息をいた。
けれど改めて顔を上げた時には、もう徹の目は欲望に燃えて、挑発的にニヤリと笑っている。
「世流はそんなに俺が欲しかったのか?」
「お前もだろ、徹」
もう一度抱き合った世流と徹は、改めて互いの口付けを堪能した。
ついばむように何度も重ね合い、舌を絡めて擦り合わせる。
「んっ、ふぅ……あ、でも中に出すのはやめろよ? 後始末するの、大変だからな……」
「それなら心配するな」
自信たっぷりに宣言した世流が、ジャージのポケットから小さな箱を取り出して見せた。
徹は首を傾げる。
「それは?」
「父さんからもらった『コンドーム』だ」
「コンドーム!? ……って何?」
世流はガックリと肩を落とした。
恋愛方面に鈍感な剣道馬鹿とは言え、まさか高校生で知らないとは……
「なんだよ……」
ブスっとする徹に、世流は溜め息をついた。
「だからなんだよ!」
「いや……説明が面倒だ。使ってみれば分かる」
箱を開けた世流は、中から薄っぺらい包みを二つ出した。
「徹、下を脱げ」
「はっ? 何で?」
「良いから脱げ」
有無を言わせない世流に従って、徹はズボンを脱ぎ捨てる。
雪は降っていないが、さすがに下半身露出は寒い。
「ヘックシュン!」
盛大にくしゃみをした徹を見詰め、世流は何かごまかすように一つ咳をする。
「……悪かった。履いたままでしよう」
「なんだよ、それ……」
文句を言いながら、徹はいそいそとズボンを履き直した。
世流がそっと後ろから、徹を抱き締める。
いつもは体温の低い世流が、初めてする外での行為に緊張して、熱を上げているらしい。
背中にじんわりと世流の温もりが伝わってきて、少しホッとした徹は、軽く息を漏らした。
「どうするんだ?」
「……このままヤる」
答えるが早いか、世流は徹のズボンに手を突っ込み、寒さですっかり萎えてしまった徹のモノを握る。
「ん……」
徹が小さく鼻を鳴らす。
「世流の手……凄く冷てぇ……」
「徹が暖めてくれるんだろう?」
徹の耳を舐めた世流は、おもむろに徹の自身を扱き始めた。
「んっく……あぁ……」
世流の手の冷たさにも増して、快感が徹の中心に集まってくる。
そして徹のモノが十分に硬くなり、世流はコンドームの包まれた袋を咥え、口で封を開けた。
「……徹、少しだけ我慢しろよ?」
「は? うわっ!?」
世流によって股間をガバッと露出させられた徹が、驚きの声を上げ、慌てて口を両手で塞いだ。
外の冷気に触れてビクビク震える徹のモノに、世流がすっぽりと薄いゴムの膜を被せる。
付け慣れないせいか、少し変な感触だ。
後ろでガサゴソする世流に気付き、少しだけ身体を動かした徹は、目線だけで後ろを振り返った。
世流に抱き締められているせいで、ほとんど身動きが取れない。
少し下を見れば、同じく股間を露出した世流が、すでに立ち上がった自分のモノにゴムの膜を取り付けている。
「こっちを見てる暇は無いぞ……俺の指を舐めろ」
そう言って口の前に出された世流の指を、徹は素直に舐め始めた。
いくら世流と愛し合いたいとは言え、こんな寒い所で急所を露出し続けるのは、何となく嫌だ。
ここは世流に従って、早く燃え上がった方が良い。
それにしても、世流の手は本当に冷たい。
元々寒いのは苦手なクセに、徹のために我慢して出てきたのだ。
何だか嬉しくなった徹は、世流の指先を暖めてやろうと、いつもより熱心に舐めだした。
クチュ……チュプ……ピチャ……
静寂に響く卑猥な音と共に、徹の口から溢れた唾液が、アゴを伝ってポタポタと落ちる。
「……そんなに楽しみなのか?」
「当たり前だろ」
ニヤリと笑った徹が、今まで舐めていた世流の手を、そっと両手で包み込む。
「寒いの苦手なくせに、我慢しやがって……こんな愛されてんのに、嬉しくない訳無いだろ?」
徹が振り返りざまに見詰めると、世流はビクッと肩を振るわせ、フイッと顔を背けた。
「……この馬鹿」
「ニヒヒヒ。世流の顔、真っ赤」
「ウルサイ!」
照れた世流が、徹の体をクルリと回し、顔を胸に埋めるようにギュッと抱き締める。
密着した分、体が温かく、緊張しているのか、世流の鼓動が速い。
徹は思わずクスクスと笑った。
「笑うな。この……」
「うわっ! ちょっ……! んっ……はぁ……」
先ほどまで舐めていた世流の手が、徹のお尻に潜り、秘部を暴き出す。
入口を揉み解され、徹の唾液に濡れた指が、ゆっくりと入ってくる。
「んっは……ふぅ……」
いつもしている事なのに、外だからか、いつもより敏感になってしまう。
世流の指は、勝手知ったると言うように、グイグイと徹の中を広げていく。
夜の冷たい空気が恥部に入り込み、徹はブルッと身体を振るわせる。
「……焦れったい」
「うわっ! また!?」
また、世流が徹の身体をクルリと回した。
「その木に掴まってろ」
「あぅ……んん……」
そう言うが早いか、後ろにしゃがみ込んだ世流が、徹のお尻に指を添えて舌を這わせる。
大量に唾液を乗せた舌で入口をなぞり、しっとりと奥まで濡らした。
徹の腰がゾクリと甘く痺れ、徐々に身体の内側から熱くなる。
媚薬だ。
世流の神力が唾液を媚薬に変えて、徹の身体に浸透していく。
「あっふ……あん……」
首筋がチリチリと疼き、快感に身悶える徹は、もう寒いとは言ってられない。
腰が抜けそうになった徹は、目の前の木にしなだれかかり、その太い幹に掴まった。
世流に舐められている恥部が、物欲しげにヒクヒクと震える。
「あん……も……ほし……世流が、欲しい……」
悩ましげな声で訴える徹に、世流が後ろでゴクリと喉を鳴らした。
けれど――
「もう少し我慢しろ」
そう言って指を差し込むだけで、世流は徹の欲しいモノをくれない。
「あん……世流……よるぅ……」
徹がいくら甘えても、世流は蛇のように、しつこくじっくりと解す。
内側を捏ねくり回す世流の指が、徹の気持ち良い所を刺激する度、熱っぽい息が漏れる。
「あふっ、ん……よる……も、いぃ……から……」
「……痛いのはお前だぞ? 徹」
それでも徹は、イヤイヤと首を振った。
「や……もぅ、我慢、できな……あ、くっ……」
世流が舌打ちする。
「仕方ないな……」
世流の指がズルリと抜かれ、その代わりに――何か生暖かい物が、徹のお尻に押し付けられた。
「ん……なに……?」
「お前が早く欲しいと言ったんだろ」
という事は、今侵入してきているのが、世流の……
「んぅ……なんか……変な……あっ、ん……」
押し広げられる刺激に喘ぎながら、徹が複雑な顔をする。
「――それはコンドームのせいだろ」
「これが……?」
いつもと違う感触に、少し困惑しているらしい。
最奥まで挿入した世流が、徹の前に手を伸ばし、徹の熱棒を上下に擦る。
「うぁ……あぁん……や、やっぱ、変……っ!」
ゴムの膜ごしに自分のモノを握られ、徹は皮が二重に動くような、不思議な感触を味わった。
肉棒の皮膚が同時に引っ張られ、全体で世流の手に翻弄される。
さらに世流が腰を動かし始め、少しずつ激しさを増していく。
「うぁ……はぁ……!」
前も後ろも責められ、徹の首から背中が、感電するような快感に反り返る。
「あぁっ……ん……よるぅ……っ! もっと……もっとぉ……!」
「徹……!」
二人は合宿中だと言う事も忘れ、何度も互いを求め合った。
☆ ★ ☆
あんっ……あぁん……!
遠くの方からわずかに漏れ聞こえる声に、道場では何人かの先輩達が、しきりに首を傾げていた。
「なぁ……さっきから変な声が聞こえねぇか?」
「どこかで誰かが、叫んでいるような……」
「でもここは山奥だぜ? 誰がこんな所で、叫んでるんだ?」
考えても、誰も分かるはずがない。
ただ一人部長だけが、シンと冷えきった部屋の中で、ダラダラと冷や汗を掻いていた。
「……ちょっと、見て来た方が良いかな?」
「やめとけ!」
一人の部員が布団から出ようとした時、ずっと黙っていた部長が声を上げた。
なぜか苛立って眉間にシワを刻み、誰もが震え上がるような、憤怒の表情で起き上がる。
「この山は夜になると、野犬よりも恐ろしい、猛獣が出る! 特に盛りがついている今は、さらに狂暴化しているんだ! 誰もこの部屋から出るんじゃない! 明日も早いんだから、全員寝ろ!!」
「「「「はい! すみませんでした!!」」」」
いつに無く激怒した部長の命令に、眠っていた一年までもが目を覚まし、全員同時に布団を被り直した。
「荒神と神野は大丈夫なのか?」と思いつつ、部長の怒りが怖くて、誰も聞く事ができない。
フーッと荒く鼻息を吹かせた部長が、全員布団に入ったのを確認して、いそいそと布団に潜った。
(神野と荒神め――! 人の気も知らないで!!)
しかし、他の部員には秘密にしている手前、夜に抜け出した事を注意する以上の事はできなかった。
……END.
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