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 誰もいない時間を見計らって、実家に忍び込む。自分の部屋を素通りし、伊織の部屋のドアを開けた。  懐かしい香りに胸が苦しくなる。  彼女はもう、この部屋に来た……?本当に彼女ができたとしたら……  机の引き出しをそっと開ける。前はここにゴムを隠してた。もし、数が減ってたら……  馬鹿なことをやってる自覚はある。だけど、確かめずにいられない。  緊張しながら、箱を開ける。  ━━━━その瞬間、死ぬ程、驚いた。  中身は全て、針のようなもので袋ごと、刺した穴があった。何これ、なんで……  考えがまとまらない。  彼女との子供が欲しくて……?それとも、俺に酷く振られてヤケになって?  ━━━━根本的に違うかもしれない。  お前も俺を恨んでた……?再婚に納得がいかなかったのは、伊織も同じ?復讐で近付いた俺に気が付いた……?  まるで足元が崩れるような恐怖。もし、あの優しささえ、偽物だったとしたら……そう考えると、心が折れそうになる。  そんなはずない。伊織は確かに俺を好きでいてくれた……      どうやって、家まで戻ってきたか、分からない。ショックで目の前が真っ暗だった。  ━━━━結局。  俺は真実を知ることよりも、目を逸らすことを選択した。  『伊織に愛されてなかったかもしれない』。受け止める余裕はなく、息ができなくなりそうで、考えることに(ふた)をする。      優しい伊織が好きだった。  俺を大切にしてくれた。  ………………それだけでいい。  伊織はこんな俺にたくさんの幸せをくれたんだから……  自分のお腹に手を当てる。  この子には俺しかいないんだ……  一人だったら、心が病んでしまっていたかもしれない。俺には守るべき存在がある。その気持ちで踏みとどまる。    伊織と俺の愛しい子。  …………この子の為に。  ひとしきり泣いたあと、決意を新たにする。 先の見えない不安と孤独はもちろんあった。    だけど、伊織が俺にくれたもの……  俺の中にある伊織の欠片(かけら)。  ………………今度は俺が大切にしよう。   (END)

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