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出会い

 あれは小学6年生ごろだったか。  夢でエッチな目にあわされていた相手が男だった。  かっこいいなあ、と思っていた若い男性教師で、彼と俺が裸で抱き合ってるようなそんなぼんやりとした(小学生の知識だったので)夢だった。  起きたら夢精していた。それが初めての精通だった。  もう、最初からいろいろ終わっていたように思う。  以来俺は自分が女の子に好意以上のものを覚えることはないと自覚した。  ドキドキして体の芯が熱くなるような思いは常に同性へ向けてのものだった。  言えない片思いは片手に余るくらいで、それがほぼ、年上の、男が理想とするような体格の渋い雰囲気を持った大人の男であるということにめまいを感じた。  背は高いけれど貧相な線の細い自分の体格とやや童顔気味のそこらに埋没するような、特徴のない容姿の自分が理想とする男性像、それが俺のど真ん中の好みだったということだ。  童貞のまま、高校を卒業した。もちろん男性経験もなかった。童貞で処女だ。  大学は文系の中堅どころの私立で、どこのサークルにも所属せず、バイトに精を出していた。 恋人は右手だ。好みの男優やモデルで抜いていた。不毛だ。  さすがにこれはまずいと思っていたところ、いい歳で女性にもてる叔父がまだ独身のままなので、不思議に思って追求したらカミングアウトされた。  男が好きだ、と。女性とも遊んだらしいがどちらかと言えば男の方らしい。恋人は持たない主義らしいので面倒なことになる女性より男性を選んだだろうなと思ったが黙っておいた。  遊ぶなら安全な遊び方を教えてやる、と言われてホイホイ乗っかった。  まず、ゴムの使用は必須。キスはするな。発展場は危ないから使うな。  ちゃんと慣らせ。(叔父は抱く方専門らしいのでそっちのレクチャーばかり受けた)安全な遊び場を教えておく等々。  そんなわけで叔父の指導のもと、ゲイ専門の出会いのバ―には何度か行った。そこで出会った経験豊富なネコさんに童貞を奪われた。いろいろテクニックを教えてもらって、凄い経験をしたと思った。  俺がネコをすることは現在までなく(身長が178センチあるせいかもしれない)毎日外を走り回っている営業の仕事で恋人も遊びもできずに日々ストレスをため込んでる俺、佐久間 隆史 24歳男、独身だった。  だからというわけではないが珍しいことに定時で退社できた今日、一人でバーに来た。  適当にだべって癒されればなと軽い気持ちでやってきた。  ここは年齢層が高く静かで落ち着いていて、店内で盛る、ということもないちょっと好みがいたら話してみて、気があったら外へという感じの店だ。  マスター(ここはママではない)は寡黙だが、要所要所でサポートしてくれるし、カクテルもおいしい。俺はお酒に弱く、子供舌なので甘めのカクテルを好んで飲む。  ジャズがゆったりと流れる店内へそっと扉を開けて滑り込む。今日は平日の月曜日の夜で、あまり客がいなかった。  俺は平日休みで明日が一応休みになっているので遅くなろうと構わない。(顧客からの呼び出しがなければ、だ)  いつもカウンターで飲むのでそちらに行こうと一歩踏み出したところだった。  カウンターに座っている男に目を奪われる。  右手に煙草を持っていた。マスターとポツリポツリと話している。  スツールに座っている後ろ姿はすらっとしていて、且つがっしりとしている。長身のようで、足を持て余してるような、そんな感じがした。  短髪であるけれど、少し後ろに流したような髪で好感が持てた。スーツは上等のブランド物か、仕立て上がりだと思われた。  年は30歳くらいか、俺より年上、ちょうど仕事も覚えて脂が乗ってきた頃のように思える。  目は一重で切れ長だ。眉も形がいい。鼻筋は通っていて、顎がシャープだ。 一言で言ってド真ん中だった。  少し震えていただろうか、やっとカウンターにたどりつくと先客に声をかけた。 「隣、空いていますか?」  ゆっくりと顔をこちらに向ける。視線が俺の頭からつま先まで一瞬で走っていくのを感じた。  値踏みされた、と思った。 「どうぞ?遠慮なく。」  声も渋い。低く綺麗に通る声。耳元で囁かれたら、絶対に腰が砕ける。  いつの間にか、手に持っていた煙草が灰皿で消されていた。  俺は腰を下ろすとカシスオレンジを頼んだ。  隣の男は水割りだった。 「初めまして。俺、そこそこ足を運ぶんですが、会うのは初めてですね。」  ふっと口元だけで笑みを見せた男が頷く。 「しばらく仕事が忙しくて半年くらいここに来れなかった。」  手に持ったグラスが音を立てた。 「嬉しいよ。早速話し相手が見つかった。」  うわあ。やばい。心臓が破裂しそうだ。 「俺もです。このごろ忙しくてストレス溜まってて。誰かと話せないかなってきたから…」  頼んだグラスが目の前にミックスナッツのおつまみとともにおかれた。   それを手にして。 「出会いに乾杯、なんて。」  ちょっとふざけたように言ってみた。男もふっとまた口元開けで笑って、グラスを掲げて寄せてくれた。 「乾杯。」  俺は一口飲んだだけだが、男はあまり入ってない中身を飲み干し、マスターにお代わりを頼んでいた。 「お仕事はどんな仕事を?」 「プログラマーだ。定時がない仕事の代名詞だな。納期があるから、泊まり込みはざらだ。まあ、昔ほど、ひどくなくなったが…今はいろいろうるさいしな。」  こくりと甘いカクテルを飲んで舌を湿らせてそれをカウンターに戻す。少し寄れば肩が触れ合いそうな距離で、相手に心臓の音が聞こえないか気になりながら、話す。 「俺は不動産会社の営業です。ノルマがあるから、結構遅くまで動き回ったりしてるので…」  俺は苦笑を洩らす。理不尽な客に振り回されるのはしょっちゅうだ。 「平日休みの代表という業界だな。俺は一応土日だが代休やらフレックスやらで、決まってないに等しいな。」  考えつつ顎に手をやる指先で撫でるようにしてそのままグラスに手を伸ばす動作をかっこいいなと思って見ていた。  かっこいい男にはウィスキーが似合うって知った。グラスと氷がぶつかる音がカクテルとは少し違って聞こえた。 「明日は休みなんですよ。だから飲んでも明日に触りはないかと思って。」  ちょっと、探りを入れた。 「偶然だな。明日は代休で俺も休みだ。明日のことは気にせず飲める。こういう日はめったにない。いい話し相手も見つかったし今夜は楽しめそうだ。」  ふっと笑って視線を俺に向けてくる。男の色気、と言うのか、なんなのか、俺は思わずぼうっと見とれてしまった。何だろう、本当に俺の理想に近いんだけど。  探りの結果、明日のことはお互い気にしなくていい。ってことは誘っても大丈夫だってことだ。そう思っていたところに、彼から声をかけられた。 「どうだ?場所を変えて飲み直そうか?二人きりの方がゆっくり話せそうだ。」  にやっと意味ありげに口の端を少し上げて、俺を見た。さりげなくマスターにチェックを頼んだみたいだ。 「は、はい、も、もちろん。」  声が裏返ったのは仕方がないだろう。きっと慣れてないのか、なんて思われたに違いない。  誘われたのは近くのホテルのバーだった。

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