2 / 14
ホテルでの一夜
暗い室内でテーブルの上にともされた灯りが揺れる。
あたりさわりのない会話と少しのお酒。
この人は意外に優しい表情をする。でも時折見せる、肉食獣のような雰囲気。これは喰われるとそう思った。
(覚悟の上でついては来たんだけど。多分俺が下なんだろうけど、経験ないしな。マグロは嫌いだろうしな…)
ちらっと上目遣いで見る。お互いの顔が見えるくらいの光量の中で浮かぶ顔は陰影が深くなって、男前を際立たせている。
かっこいい。
そう思って頬が少し熱くなった。
「なんだ?何か顔についているか?」
テーブルに肘をついて身体をこちらに乗り出し、俺の顔を覗き込む。片手が俺の手の上に重なる。
「今夜はここに泊らないか?」
囁くように呟かれて、思わずかあっと赤くなる。それを見た彼の顔がにっと笑みを深くした。
俺は頷くことしかできなかった。
で、俺は今、ツインルームにいた。
角部屋で広い。入ったところからすぐがソファーセットやビジネス机のセットがあり、奥に衝立みたいに壁があって、ベッドルームが直接見えないようになっている。案内を断ってここに来たが、高級ホテル並みのグレードだ。
入ってまっすぐ行ったところの中ほどの左手がクローゼット、突きあたり奥にバスルーム兼パウダールームがあった。アメニティも豪華だった。
バスルームを仕切る扉はガラス張りでちゃんと身体を洗う場所もあって広かった。
(カップル仕様っぽいじゃないか…俺そこらへんのラブホ考えてたけど…えー?ここ宿泊料いくらだよ?ビジネスのシングル3つは入りそう。一晩の相手なのに…)
彼はコートとスーツの上着をクローゼットにしまっている。俺も、コートと上着をかけようとハンガーを手に取った。
彼がネクタイを緩める仕草が目に入った。あ。なんか、萌える。思わず見つめてしまった。
視線に気づくと彼はふっと笑った。それにまた見惚れてしまいそうで慌てて服をクローゼットにしまった。
「せっかく広い風呂があるんだ。一緒に入らないか?」
「はっはい!」
上擦った声返事をした俺は、どんだけ緊張してるんだよと、思った。
…やっぱり一夜の情事に使うような部屋じゃない。少しだけ息を吐きだし、全て脱いでいく。
洗面所の壁半分を占める鏡に映る自分の裸は貧相で、隣で服を脱いだ、彼の引き締まって無駄のない筋肉に覆われた身体とは比べる価値もないと思えた。
彼が扉を開けて俺を招く。扉を支えてくれていた。
え、レディーファーストじゃないんだから、そんなことしなくても…なんだか申し訳なくて軽く会釈して中に入った。
中を見回す。その間に彼が中に入ってきて背後から抱きしめられた。
ドキンと心臓が跳ねた。
耳元に唇を寄せられて吐息がかかる。それだけで俺は身体の熱が上がった。
「俺はケイと言うんだが、名前を教えてくれるか?」
囁くように言われてぞくりと背筋が震えた。腰に来る。
「あ。タ、タカシ…」
「タカシ、か。呼びやすい名前だ。」
顎に手を添えられて、後ろを向かされる。彼の唇が降りて、吸い上げられた。
「…んッ」
叔父がするなって言ったから、キスはまだしたことがなかった。
しなくて正解だった。こんなキスされたら、俺は腰砕けになる。腰砕けになって、相手に夢中になってしまう。
抵抗する間もなくされてしまうなんて、この人は…ケイは相当な場数を踏んでいる。
合わさるようなキスから段々と深く、吸い上げてくる。上手く息継ぎができずに口を開けると舌が侵入してきた。唇の裏側をなぞっていく。くすぐったさとじれったいような燻ぶる感じ。
口内のすべてを舌で味わうようにされて、舌の根もとの唾液腺をなぞられた。そのまま表面を舐められて舌を絡められ、きつく吸い上げられた。混ざる唾液を思わずごくりと飲み込んだ。唇はきっと唾液で濡れている。
俺は夢中になってキスを味わった。
いつの間にか胸や腹をまさぐられていて乳首や乳輪を指で弄られていた。そこは刺激にぷくりと膨らんだ。
ゆっくりと唇が離れていく。
閉じていた目をゆっくりと開けて間近の顔をぼうっと見つめた。
「なかなか、そそる表情カオだな。」
身体を離された。体温が離れて惜しいと思った。
備え付けのバスジェルを手に、彼が戻ってきた。バスタブにそれを注ぐとお湯を勢いよく出した。泡が出て、よく洋画にある、泡風呂になる。俺はそう言う風呂に入ったことはなくて、興味深げに見ていた。
「なんだ?入ったことはないか?」
「はい、ケイさん。そもそも、ビジネスホテルしか泊ったことありませんから。ラブホではシャワーしか使わないですし。」
応えている間に腕を引かれてシャワーの前に立たされる。
「ケイでいい。その敬語もやめてくれると助かる。」
ふっと笑って髪をくしゃっとされた。お互いにシャワーがかかる。
そして俺は、人に髪を洗ってもらうという体験をすることになった。
何この人、何でこんなに面倒見がいい!?
まるで恋人のように扱われている気分になる。
洗ってもらったから、今度は俺が洗った。それでバスタブはちょうどお湯がたまる頃合いになった。
「あ。水も滴るいい男になってますよ。」
くすっと笑って言った。水滴が滴る彼の意外に長い前髪を思わず掻きあげてしまった。
「敬語。タカシもそうだろう?」
ふっと笑って俺を見る。また心臓が跳ねた。
「いやいや。俺なんて…この平凡顔だし。いい男なんて言われたことないし。」
「ほう?まあ、いいか。」
意味ありげにケイは顎を撫でて俺を見る。なぜだか居心地が悪くて視線を泳がせた。
そんな俺の腕をケイは黙って引いた。
先にケイがバスタブに入って俺を招く。座って足を開いたケイの足の間に背を向けて座らされると手が前に伸びて抱きこまれた。耳に吐息がかかったと思うと舌で耳裏を舐められる。ぞくっと項が震えた。
抱き込んだ手がまた、俺の身体を撫でまわすと、波立つジェルの溶け込んだお湯がぬるりとした感触で俺の肌を撫でていく。
(なんだこれ、すっごいエロイ状況じゃないか。しかも泡で中見えないし。やばい。お湯は思ったよりぬるいし。やっぱこの人の経験値半端ない!?)
背中に感じるたくましい胸板と割れた腹筋も俺の熱を上げさせた。
また乳首を指腹で捏ねまわされる。そこから甘い痺れが股間に走ったような気がした。
俺のペニスが熱を持って持ち上がった。思わず腰を捩るとケイのペニスが尻に当たった。
堅くなっているように感じた。それが俺で感じているんだと嬉しく思えた。
項をケイの唇が這う。背中に電流が走った気がしてびくっと大きく震えた。
「ケ、ケイ…」
思わず困った顔で後ろを振り返った。
「なんだ?」
にやっと楽しみを見つけた顔で聞き返されて俺は黙るしかなかった。
ちゅ、と大きな音を立てて項を、首の根元にキスを下ろしていく。俺はそのたびに大きく体を震わせた。
「あ…ッ…ん、あっ…」
浴室に俺のあげる嬌声が響く。恥ずかしくなって耳まで赤くなった。
胸もしつこいくらいに弄られて、いつもへこんでる乳首が主張するように尖っている。しまいには指がかすめるだけでびくっと身体が震えてしまうようになった。
もうすでに俺のペニスはすっかりと勃ち上がってしまっている。
「あ。気持ち、イイ…そこ、イイ…」
上擦った声でもっととでも言うように呟く。腰が揺れてケイのペニスを刺激した。堅いものが尻の狭間に当たる。俺の腰を少し持ち上げられて股間の下にケイのそれが滑りこむ。
先端の部分が会陰をかすめていく。陰嚢の間を裏筋を擦り上げるようにして差し込まれた。その感触に俺はお湯の中に先走りを滲ませた。
「あんっ…ケイ、イイっ…」
思わず腰が動いて擦り合わせようとした。
「エロいな。タカシ…」
股の下でケイの体積が増えた。何度かそこを往復して擦る。
「あ。あっ…」
耐えきれない。そう思って手がペニスに伸びる。それを阻まれて、体勢をひっくり返された。
ケイの太腿の上に座らされて真正面で見つめ合う形になって恥ずかしさに顔が赤くなった。
「どうした?」
身体を引き寄せられて、お湯が波立った。
「え、あ…は、恥ずかしいなと思っただけで…」
「なんだ、初心なんだな。身体は快感に酷く弱いようだが…」
ふっと口の端を緩くあげて笑った。俺を好ましいと思ってくれるなら、何でもいいけど、初心って、処女みたいじゃないか。いや、まあ、これから待っている行為には十分処女なんだけど。
「よ、弱いって久しぶりなだけで…」
にやりと笑って俺にまた口付ける。ちゅ、ちゅ、っと音がする方法で。それを聞かされて俺はまた頬の色を赤くした。俺の腰を抱える手が狭間に伸びる。そこにある窄まりに指が触れた。びくっと腰が跳ねて、キュッと襞が縮こまった。
「あ…」
思わず戸惑った顔をした。やっぱり少し、怖い。
ケイの目が少し眇められたと思ったが、指は遠慮なくそこを撫でで、ツプリと中に入ってきた。
未知の行為に息を詰めた。
ともだちにシェアしよう!